【事例】
 製品開発部のエンジニアAさんは、既存のコネクタ製品を基に、簡単に接続できる上に信頼性の高い製品を開発しました。さらに、将来の中国での権利化も視野に入れて、それを国際特許出願しました。

 しかし、国際調査機関の見解書では4つの引用文献を挙げて、本発明は進歩性を有さない(つまり、容易に思いつく)との否定的な見解が得られました。すると、それを知った知財部の担当者からは「特許出願のままで中国での権利化を図るとしても拒絶される可能性が高いので、出願形態を実用新案出願に切り替えましょう。中国の実用新案出願は、実体審査なしですぐに権利化できます」と告げられました。

 Aさんは、「日本では実用新案権の権利行使に制限があって使いにくく、しかも簡単につぶされると聞いています。それは、中国でも同じでしょう。そんな弱い権利を中国で取得してどんな意味があるのですか。ただでさえ、国際調査機関からは既に否定的な見解が下されているのだから、簡単につぶされるのは目に見えているのに」と思いました。知財部の担当者の真意は、どこにあるのでしょうか。


【解説】
 果たして、Aさんの考案は中国で実用新案権を取得できたとして、簡単につぶされる(無効化される)のでしょうか。実は、この実用新案権は簡単に無効にされるとは言い切れないのです。それを説明する前に、中国における実用新案出願の現状や実用新案制度の特徴などについて紹介します。

中国における実用新案の現状

 図1は、2005~2011年に中国で出願された実用新案の件数を示したものです。この図から分かるように、近年、中国では実用新案出願件数が増え続けており、2010年に約41万件、2011年には約58万5000件に達しました。内訳を見ると、中国国内からの出願が99%以上を占めており、外国からの出願は非常に少ないという特徴があります。

図1●中国における実用新案出願件数の推移(2005~2011年)
出典:中国専利統計年次報告