クルマ 自動車の最新技術を追う
 

第4回:期待の右腕(下)

高野 敦=日経ものづくり
2012/04/19 00:00
出典:日経ものづくり、2008年10月号 、pp.239~241 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
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【前回より続く】

言ってダメなら乗せてみる

「PMパッケージ」の実証に使った試作車。2002年に発売した「Infiniti G35」(スカイラインの北米市場向けモデル)がベースになっている。
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 さらに,居住性と同じくらい重視したのが,車体質量(重力)の活用である。通説では,初動時の加速性能を損なう質量は,スポーツカーの“敵”。ギリギリまで寸法を削り,軽金属や炭素繊維といった軽い素材でとことん軽量化するのがスポーツカー開発の常道といえる。

 水野は,この通説も疑った。質量は,高速性能に不可欠なタイヤのグリップ力を生み出す源泉でもあるからだ。軽量素材を多用すれば,原価にも響いてくる。単に軽量化するのではなく,重量物の配置バランスにより質量を生かすようなクルマ造りを目指す。その方が,最終的に優れた加速性能を得られるのではないだろうか。それが,水野の読みだった。

 そうして生まれたプラットフォームが,V35型「スカイライン」(2001年)やZ33型「フェアレディZ」(2002年)などに使われた「フロント・ミッドシップ・パッケージ(FMパッケージ)」である。名称の由来は,エンジンの重心が前輪軸の中心よりも車両後方側に位置すること。車体質量の前後配分を最適化するために編み出したレイアウトだ。水野は,これら車種のCVEを連続して務め,FMパッケージの製品化を自身の手で実現する。

 だが,FMパッケージは水野の理想をすべて投影したものではなかった。あくまで,従来のFR車の延長線上にあるものだったからだ。

 FR車は,エンジンや変速機といった重量物が車両前方に集中する。故に,車体質量の前後配分を最適化するのが難しい。こうした制約を前提にFMパッケージでは,最適な配分を実現したが,理想を追い求める水野にとって,決して満足できるものではなかった。

 居住性と質量配分をより高い次元で両立させるには,パッケージを劇的に変える必要がある。そこで生まれたのが,例のトランスアクスル方式である。「プレミアム・ミッドシップ・パッケージ(PMパッケージ)」と水野は命名した。FMパッケージも悪くないけど,本命はこっちだ。自信満々で周囲に構想を語ったところ,全く評価されない。

 とはいえ,水野は幸か不幸か,周囲からの無理解には耐性ができていた。FMパッケージも最初はそうだったのだ。論より証拠。水野は,これまで苦楽を共にしてきた部下の高橋孝治と一緒に,PMパッケージのクルマを試作することにした。ベース車両は「Infiniti G35」(スカイラインの北米市場モデル)。もともとは自分たちが開発したクルマだから,そこは手慣れたものである。2003年6月ごろには試作車が完成した。

 構想を語っても全く相手にしなかった人間が,試作車に乗ると手のひらを返すように“信者”になっていく。そもそも,トランスアクスル方式のクルマを運転したことがある者など,社内にはほとんどいないのだ。いったん実物に乗せてしまえばこっちのもの。水野の狙い通りだった。

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