クルマ 自動車の最新技術を追う
 

第2回:意地の代償(下)

高野 敦=日経ものづくり
2012/04/12 00:00
出典:日経ものづくり、2008年9月号 、pp.239~241 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
印刷用ページ

【前回より続く】

ドライバーに申し訳ない

水野和敏
日産自動車Infiniti製品開発本部Infiniti製品開発部第二プロジェクト統括グループ車両開発主管 兼 チーフ・プロダクト・スペシャリスト (写真:田中 昌)

 水野が意識していたのは,ゴーンの「究極のロードカー」という表現に込められた,次期GT-Rに対する要求水準の高さである。閉鎖的なスーパーカー市場において,全く新しい価値を提示できなければ,日産自動車が造るクルマなど見向きもされないだろう。

 スカイラインの改良版でそれが可能だろうか。当時の日産自動車の知見をすべてかき集めても,ゴーンの言葉を具現化できないと水野は考えていた。

 スカイラインは悪くない。スカイラインを改良すれば何とかなるという考え方がダメなのだ。そのことを痛烈に感じさせられた経験が,水野にはあった。1995年のル・マン24時間レースだ。

 この時,水野は,R33型スカイラインGT-Rベースの車両で参戦していた。予選はまずまずの結果。しかし,決勝が始まる直前に水野は愕然とする。

「こいつらと競争するのか…」

 スターティング・グリッドでスタートを待っていた「マクラーレンF1 GTR」と「ポルシェ 911 GT2」が強烈な存在感を放っていたからだ。速いのは当然。だが,速さゆえの美しさも感じた。それに比べれば,自分たちのクルマは何とみすぼらしいのか。ドライバーに申し訳ない。まだ決勝が始まる前だというのに,そんな気持ちばかりがわき起こる。

 そのころ,GT-Rは国内のレースでは無類の強さを誇っていた。だから調子に乗っていたと水野は言う。こいつらに絶対に勝てる方法を考えなければならない。固い決意を胸に,水野は帰国の途に就いた。

「スカイラインGT-R」の歴史は,1970年前後に人気を博した「ハコスカ」「ケンメリ」の時代と,1980~1990年代にGT-Rグレードを復活させたことで話題になった時代に分かれている。
[画像のクリックで拡大表示]

 そこから生まれたのが,自分たちは単に“造り替え”をやっていただけではないかという反省である。進化といえば聞こえはいい。だが,要するに既存のクルマに新しい開発要素を継ぎ足しているだけだ。外形寸法も車体質量も原価も確実に増えていく。一方,名車と呼ばれるスポーツカーでこうした造り方をしているものは存在しない。

 当然,スカイラインの派生グレードという位置付けがGT-Rブランドの確立に貢献した側面もあるだろう。ブランドストーリーとしてはよくできている。「丸目のテールランプや直6エンジンがなければスカイラインじゃない」と主張するファンが少なからずいるように,GT-Rも「スカイライン(の派生)じゃないGT-Rなど認めない」というファンがいることも事実だ。

 しかし,顧客に対して最高のものを提供するというメーカーの本質に立ち返ったときに,既存のブランドストーリーに乗っかるだけでいいのか。ゼロから造り直さなければ,ゴーンの言う究極のロードカーなど造れないのではないか。そんな思いを抱きながら,水野は時を過ごしていた。

ここから先は日経テクノロジーオンライン会員の方のみ、お読みいただけます。
・会員登録済みの方は、左下の「ログイン」ボタンをクリックしてログイン完了後にご参照ください。
・会員登録がお済みでない方は、右下の会員登録ボタンをクリックして、会員登録を完了させてからご参照ください。会員登録は無料です。

【日経Automotiveセミナー】
 escar Asia 2015
  ~クルマのハッキング対策、世界の最前線~


今後、クルマにハッキング対策は必須だ。リコールに至るなど実害が出始めた。いま、日米欧でECU(電子制御ユニット)のセキュリティーを高めるためのプロジェクトが動いている。escar Asia 2015は、世界の第一線級のセキュリティー技術者が集って最新の情報を披露し、議論する。総務省、JASPAR、欧州メーカーなどが一堂に集まり、今後の展望を語る。詳細はこちら
車載ネットワークの最新動向を解説する「激変!車載ネットワーク」も同時開催。詳細はこちら

日時:2015年9月7日(月)~8日(火) 10:00~17:05
会場:目黒雅叙園(東京・目黒)
主催:日経Automotive
日経BP主催のお薦めセミナー
スキルアップしたい方は必見!

マイページ

マイページのご利用には日経テクノロジーオンラインの会員登録が必要です。

マイページでは記事のクリッピング(ブックマーク)、登録したキーワードを含む新着記事の表示(Myキーワード)、登録した連載の新着記事表示(連載ウォッチ)が利用できます。

協力メディア&
関連サイト

  • 日経エレクトロニクス
  • 日経ものづくり
  • 日経Automotive
  • 日経デジタルヘルス
  • メガソーラービジネス
  • 明日をつむぐテクノロジー
  • 新・公民連携最前線
  • 技術者塾

Follow Us

  • Facebook
  • Twitter
  • RSS

お薦めトピック

日経テクノロジーオンラインSpecial

記事ランキング