数式をテイラー展開

 例えば、図2のような回路を考えてみる。

図2●テイラー展開で計算する回路図
図2●テイラー展開で計算する回路図
このような回路でVOUT(出力電圧)の公差を求める場合は、テイラー展開を使用する。

 これは冒頭で紹介した須藤氏がセミナーで使用する例題だ。ここで、VOUTは出力電圧、R1R2は抵抗、VSENSEは抵抗R2の両端の電圧である。

 VOUTVSENSE×(R1R2)/R2

となり、このような場合には分散の加法性を適用できない。除算が入っているためだ。そこで、上の数式をテイラー展開する。まず、それぞれの平均値と公差はμまたはTに下付き文字を添えて表す。つまり、

 VOUTμVO±TVO
 VSENSEμVS±TVS
 R1μR1±TR1
 R2μR2±TR2

 求めたいのは、VOUTの公差TVOである。そこで参考にするのが次式だ。幾つかの正規分布(分散はσXi2)をテイラー展開を用いて表したものである。

 公差は、√計算を用いる場合、分散の平方根(標準偏差)の倍数となっていることが多い。従って、公差と分散の平方根は比例関係にあるので、公差も上式に当てはめて導ける。すなわち、

となる。各要素でVOUTを偏微分して2乗し、その要素の分散を掛ける。これを、それぞれに要素で計算して足し合わせるわけだ。

 ここでは、X1=VSENSEX2=R1X3=R2とする。

 ここに、具体的な数値を代入することで、出力電圧VOUTの公差TVOが求められる。例えば、R1=2500±24.905Ω、R2=800±7.9Ω、VSENSE=0.8×0.028Vとした場合のTVOは、

 TVO=±√0.01457 =±0.1207V

と計算できる。

ランダムに数値を代入

 テイラー展開も、数式が複雑になってくると計算が煩雑になる。そこで有用なのがモンテカルロ法だ。正規分布となる乱数を発生させ、それらを数式に代入して計算する。

 つまり、VSENSER1R2で具体的な数値を発生させ、それらをランダムに組み合わせる。実際の部品を組み合わせたことをシミュレーションすると考えればよい。計算は数千回行うことで、妥当な結果を得られる。

 特に、最近はコンピュータの計算処理能力も向上しており、膨大な時間が必要なわけではない。逆に、テイラー展開では数式を間違ったり、途中の計算を間違ったりする危険性もあるので、モンテカルロ法シミュレーションは手軽で間違いの少ない方法ともいえる。

部品の公差を把握する

 電子部品の公差計算を実施する上では、各部品のバラつき方を正確に把握する必要がある。基本的には、規格幅を標準偏差の6倍(±3σ)として考えるが、日本の部品メーカーでは、それよりも工程能力が高いことがある。前述の標準数列に基づいた部品でも、実際には1段階厳しい許容差を満たしている場合も少なくない。厳密に公差設計するためには、単に公差の規格幅だけでなく、その規格幅の工程能力も把握することが必要だ。

 では、実際のバラつき方を把握するにはどうしたらよいか。1つには、部品メーカーと交渉して、情報を開示してもらったり、契約時に工程能力を明記したりする。しかしこれは、大量の部品を購入する場合など、部品メーカーに対して強い立場になければ難しい。カタログなどを見て市販の部品を購入する場合には、こうはいかない。

 そのような場合には、受け入れ検査を通して自社で把握することになる。全量検査は無理でも、適切な方法でサンプルを抽出すればバラつき方は把握できる。