電子回路の設計において、部品の特性のバラつき方を統計的に考えて、部品コストを削減しようという動きが広まっている。「規格から外れる可能性もあるため検査工程は必要となるが、ムダに高品質な部品を使ったり、調整工程を加えたりするよりはコストを低くできる」〔プラーナー(本社長野県・下諏訪町)シニアコンサルタントの須藤清人氏〕。

 須藤氏は、電子機器の低電圧化によってニーズが増している電源回路の設計者向けセミナーの講師を務める。そのカリキュラムの中に、回路設計における公差設計の進め方も盛り込んでいる。「部品の価格と公差の関係は変化しており、公差設計の意味が出てきている」(同氏)という。

 メーカー側でも、電子回路の公差設計に対する注目度は増しているようだ。これまでは、特性の中心値と最悪値を使って計算していることが多かったというあるメーカーの技術者は、「統計的な検討は、抵抗値や静電容量、インダクタンスなどの許容差を含むアナログ回路の検討に適している」と期待を寄せる。正確な公差設計ができれば、利用価値は高い。

調整部品を無くす

 バラつきは、機械部品の大きさや形状の寸法公差だけでなく、電子部品の特性にも存在する。機械部品であれば、設計段階で各部品の公差を設定することが可能だが、電子部品は調達、購入することが多い。このため、許容差や公差として部品メーカーが決めた値を使って、いかに効率良く回路設計(部品の選択)を行うかが重要となる。

 機械部品と同じく、電子部品でも公差が小さい部品ほど基本的には高価だ。電子回路における公差設計をきちんと実施し、適切な公差の部品を選択することはコスト低減に直結する。ここで重要なのが、単に公差の許容限界値に基づいた検討をするのではなく、バラつきを統計的に処理する方法を採用することである。さらに、電子回路の公差設計では、機械部品とは少し異なった考え方を活用する必要もある。

 複数の部品で電子回路を構成した場合、各部品の特性は公差内でバラつく。これら特性値が異なる部品が、どのように組み合わされるのかという考え方によって、電子回路を構成する部品のトータルコストは変わってくる。その1つが、調整用部品の有無だ(図1)。

図1●公差計算と調整部品
図1●公差計算と調整部品
公差の最悪値(規格の上限、下限)だけを考えて計算すると、高価な調整用部品を使わざるを得なくなる。しかし、公差を統計的に処理(公差計算)することで、調整用部品なしでも目標仕様内に収めることが可能になる。

 調整用部品が必要となる考え方では、最悪(バラつきが最大)の部品が組み合わせられることを前提とする。つまり、規格上限値の部品だけを組み合わせたケースと、規格下限値の部品だけを組み合わせたケースだ。両ケースでは、電子回路の特性が大きく異なるため、そのままでは製品の仕様を満足させることができない。

 そこで、調整用部品を組み込んで、調整工程を経ることで目的の性能を出す。しかし、調整用部品のコストは調整機能がない固定部品よりもかなる高いし、調整作業に必要となる人のコストも大きい。調整用部品には可動部があるため、信頼性の点でも好ましくない。

 そもそも、大量の部品をランダムに組み合わせることを考えると、規格上限値の部品ばかりが組み合わされる可能性はかなり低い。公差内でバラついているとはいっても、多くの部品の特性は公差の中央値付近で、上限値や下限値となる部品は少ない。公差中央値を平均とした正規分布となっていると考えるのが一般的だ。