軽自動車は元々3気筒、“ガラパゴスエンジン”である。 1気筒あたりの排気量は最適値とはほど遠い220mL。 各社は快適性でなく燃費で戦うことになる。 2輪譲りの小径プラグを生かしてロングストロークにしたエンジンが現れた。 冷却を強化し、点火時期を早めることによってトルク、燃費を向上したエンジンもある。

 軽自動車の3気筒エンジンは、これまで紹介してきたような1気筒あたりの排気量を真剣に検討し、最適値を追求してきたものとは違う。3気筒で660mL、1気筒あたり220mLと小さく、振動に関しては贅沢な“多気筒エンジン”なのである。ダイハツ工業が現在開発を進めている2気筒にしても330mLしかなく、まだまだ小さい。

図1 スズキが「MRワゴン」から搭載を始めた「R06A」エンジン
図1 スズキが「MRワゴン」から搭載を始めた「R06A」エンジン
自然吸気、ターボ過給の2種類があり、写真はターボ過給。

 となると、軽自動車用3気筒エンジンの戦いどころは振動ではなく燃費ということになる。スズキは、この1月に登場した新エンジン「R06A」を開発するに当たって、何をおいても燃費を追求した(図1)。優先順位は燃費に続いて低回転でのトルク、振動・騒音、軽量化の順である。振動・騒音は3番目の課題に過ぎない。

 燃費を追求した結果、「R06A」を積んで登場した新型「MRワゴン」のうち、2輪駆動、アイドリングストップ機構の付いた「Xアイドリングストップ」の10・15モード燃費は27.0km/L(p.54の解説記事参照)。ダイハツ工業「ムーヴ」のアイドリングストップ車と、ハイブリッド車以外で最高の数字を争う。

 燃費のためにしたことは、ロングストローク化である。今までの標準エンジン「K6A」は逆にボア×ストロークがφ68×60.4mmというショートストロークが特徴だった。K6Aが登場したのは1994年。開発したのはもう少し前、バブル期だったこともあり、出力を優先したエンジンだった。しかも初めに載せたのが「アルトワークス」のターボ車だったから、どうしても高回転、高出力優先になった。

 これに対してR06Aはφ64×68.2mm。ストローク/ボア比にしてK6A の0.89から1.07へと大幅にロングストロークになった。SV比(表面積/体積)はK6Aより5%小さくなった。