図1●電子ピアノ用鍵盤の組立ラインの一部
写真は樹脂製の白鍵(52本)と黒鍵(36本)を組み付ける工程。
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 ロボットの導入でしばしば課題となるのが,部品の供給方法である。この点でさまざまなアイデアを駆使し,電子ピアノやシンセサイザーの鍵盤の組み立て,さらには鍵盤の構成部品の一つである「ハンマー」(鍵を押したときの手応えを作り出す部品)の成形を大幅に自動化していったのがローランド(本社浜松市)である(図1)。

 例えば,電子ピアノの鍵盤は従来,人手で組み立てていたが,全24工程中の9工程をロボット化。ロボット以外の設備を含めると全工程の約8割に上る19工程を自動化している。さらに,従来は外注していたハンマーのインサート成形では,ロボットを利用した完全自動化によって内製化を果たした(図2)。ハンマーの製造では「成形機へのインサート部品の挿入」「成形品の取り出し」「ランナの除去と検査治具への成形品のセット」「検査後の合格品のトレー詰めと不合格品の排除」といった作業にロボットを適用している。

図2●ハンマー
右にある四つがハンマー。プレート(左の四つ)と呼ばれる鋼板製の部品をインサートして成形したもの。プレートの部分が重りとなる。音域によって4種類のハンマーを使い分ける。8個取りの金型で成形し,ランナを切断して完成させる。
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シーソーのようなハンマー

図3●電子ピアノ用鍵盤の構造
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 ロボット活用で部品供給が課題となるのは,以下のような理由からだ。通常,人手で組み付けを行う現場では,部品は袋や箱に複数個まとめて入れられている。あるいは,バラ積みにされている。だが,人手と違ってロボットの場合は,そうした部品の山の中から部品を一つずつ取り出し,所定の向きや部位で部品をつかむのが難しい。このため,ロボットを使う場合は部品の設計を見直し,ツールやハンドを工夫した上で,さらに部品供給方法の工夫も必要になる。

 ローランドでは,部品の形状,生産性やスペース効率などの条件を満たすように,それぞれの工程に合った部品供給方法を考え出している。中でも,興味深いのがハンマーの組み付け工程における部品供給方法である。

 ハンマーとは前述の通り,白鍵や黒鍵を押したときの手応えを作り出す部品。中央部が軸で支持され,演奏者から見て奥側と手前側がシーソーのように動く(図3)。それぞれの鍵の下に一つずつ配置されており,白鍵や黒鍵を押したときに,鍵の裏側に設けた突起がハンマーの手前側を押し下げ,ハンマーの奥側がシーソーのように持ち上がる。ハンマーの手前側は樹脂,奥側は鋼板でできているため,奥側が持ち上がる際にそれが重りとなって鍵を押す際の手応えを生む。さらには,ハンマーの背面奥寄りに設けたツメが「ジャック」と呼ぶゴム製の部品に引っ掛かりながら持ち上がっていくことにより,グランドピアノのようなタッチ感を生じさせる。