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新興国に最強工場をつくる

最終回:現地従業員のチームワークは、こう高める

2012/02/06 00:00
佐々木久臣=東京大学 特任研究員、元・いすゞ自動車 専務取締役
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出典:日経ものづくり,2011年11月号 ,pp.89〜91 (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

 新興国の工場において、製造品質と生産性を高めてものづくりを成功させるためには、日本と同じように「常に改善活動可能な労使関係」を社内で構築し、これをサプライヤーにまで広げていく必要があると指摘した。今回はチームワークという視点から、常に改善活動可能な労使関係を工場内に構築するための実践法と、それをどのような形で「7M+R&D(ななエム プラス アール アンド ディー)アプローチ」に組み込んでいるのかを中心に紹介しよう

 7M+R&Dアプローチは32の評価項目を0から4点の5段階で評価し、その合計点で、生産拠点や企業全体の実力を見える化する手法である。

「チームワーク」が分からない

 製造現場では、現地の従業員にチームワークよく働いてもらう必要がある。チームワークは、常に改善活動可能な労使関係の構築に向かう第一歩である。日本では製造現場に限らず、ほとんどの職場でチームワークが機能しているが、海外では日本のようなチームワークは、自然発生的には存在しないと考えた方がよい。そのため、改善活動を実施する前にまず、チームワークが機能する職場環境を作らなければならない。しかし、これはとても難しい。7M+R&Dアプローチでは、この点を強く意識している()。

図●7M+R&Dアプローチにおけるチームワーク(評価項目25「新たな事象への対応力」)の評価方法
ここではチームワークの導入だけではなく、それが契約書(雇用契約や労働協約)に含まれていることを重視している。これは、海外では契約社会であることを経営陣や管理者が認識しており、そのための対策として契約書を重視していることを示すものである。

 確かに、チームワークはもともと英語であり、サッカーや野球などの団体競技でも使われているので、特に欧米人にとっては当たり前のことと思うかもしれない。

 だが、欧米でいうチームワークは、スポーツなど特殊な世界のもの。通常の仕事は契約に基づいて行われ、そこにチームワークの概念が盛り込まれていないため、工場で働く作業者に「チームワークを働かせよ」と言っても理解してもらえない。現に筆者は、欧米に限らず、アジアの多くの国で「ものづくりにおけるチームワークの定義を教えてほしい」と何度も聞かれたことがある。

決まった仕事をすればよい

 日本の製造現場がチームワークに基づいて仕事を進めるとすれば、海外の多くの製造現場では「ジョブ・ディスクリプション」に基づいて仕事を進める、といえる。ジョブ・ディスクリプションとは組織の各ポジションの職務内容を記載したもので、日本語では「職務内容記述書」と訳されている。

 この文書によって各ポジションの職務内容が規定され、従業員に期待される業務とそれに見合う賃金が決まる仕組みだ。契約社会である欧米では雇用管理の基本文書として広く用いられており、インドネシアでも30年以上前から使われていた。

 日本人が海外で工場の運営に携わった場合、このジョブ・ディスクリプションが盲点になるケースが少なくない。例えば、技術革新や経営革新を進める過程で、当初のジョブ・ディスクリプションで規定した以外の業務が必要となるときなどだ。

 その場合、新たな業務は各従業員に割り当てられた既存のジョブ・ディスクリプションの範囲外になる。そのため、その仕事を誰かに割り当てようとしても、「それは私の仕事ではない」と言われてしまいかねない。これでは、改善活動に取り掛かれるはずがない。

 加えて、改定の問題がある。新たな業務が発生する場合、その状況に対応するためにはジョブ・ディスクリプションを改定しなければならない。その際、新しい仕事を割り付けられる従業員は、仕事量の増大あるいは責任範囲の拡大に対して対価(賃上げ)を要求するのが一般的である。

 ジョブ・ディスクリプションの改定には、対象となる従業員と業務内容を再設定するための打ち合わせ(交渉)と、それに伴う賃金改定の打ち合わせ(交渉)が必要になる。この交渉はスムーズにいく場合もあれば、そうはいかない場合もある。このように時間がかかる手続きを踏んでいたのでは、機動的な生産活動などできない。これが、多くの日系企業の海外生産拠点におけるジョブ・ディスクリプションの盲点である。

 日本以外の多くの国では、ジョブ・ディスクリプションで決められたこと以外は自分の仕事ではない。従って、どれだけ不良品が出ようが深刻な問題が起きようが、「既定時間働いて賃金が同じなら楽な方がいい」と考える従業員の方が多い。メーカーにとって重要な顧客満足について考えるのは別の誰かの仕事で、「自分の仕事ではない」のである。注意すべきは、海外ではこの考え方は決して職業倫理に反するものではなく、ごく普通の考え方であることだ。

チームワークを定義する

 こうしたジョブ・ディスクリプションに基づいた働き方を変える突破口がチームワークである。ただし、チームワークが大切だと従業員に言い聞かせたり教育や研修を行ったりしても、それだけで効果が期待できるわけではない。前述したように、製造現場にはチームワークという概念がなく、作業員にはその意味するところが分からないからだ。

 そこで、筆者はチームワークを具体的に定義し、雇用契約や労働協約に組み込むことを推奨している。評価指標である7M+R&Dアプローチでは、25番目の項目「業務の割り付け方法」で雇用契約や労働協約に組み込んでいるかどうかを評価している()。

 チームワークは、以下の3項目で定義する。

・チームメンバーは、チームの目標を理解し、メンバー間で共有している。
・チームメンバーは、チームにおける自分の役割を理解しており、それを実行する。
・チームメンバーは、チームの他メンバーの役割の概要を理解し、他メンバーが困難に遭遇している場合は援助する。

 チームワークをこのように定義して海外の製造現場に定着させることができれば、チームワークの概念がなかった従来の労働価値観を変えることができ、改善活動を行うための基盤を一気に整備できる。

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