ちょうどそのころ,立石と佐久間がICカードを使ったタイムレコーダーの開発で一緒に仕事をすることになった。実は,この二人はタイプが全く異なる。立石はアイデアマン。商品の企画を思い付いては,必要な機能や仕様を次々に書き出していく。一方,佐久間は立石がこうやりたいと言い出したことを,コツコツと具体化するのが得意。

「視点がいいなあ」

「ちゃんと製品にしてくれた」

 得意分野が異なる立石と佐久間は,タイムレコーダーの開発を通してお互いの才能を認め合う。こうして,企画と製品化で役割分担する名コンビが誕生した。数年後,立石はDM10の企画を一から考え,製品化を佐久間に託した。

とにかく持ってこい

「とにかく,何台でもいいから持ってこい」

「何台でも?」

 DM10の発表から数日,販売店には予想を上回る予約が殺到していた。販売店からキングジムへの引き合いも尋常ではなかった。

 亀田は,すぐさま製造委託先の役員に連絡を取って増産を要求した。

「どれくらい造りますか?」

「もういくつでもいいから,とにかく造ってくれ」

「え?」

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 亀田を含めて,社内でも一体何台売れるか検討がつかない状況だった。2008年11月10日の発売後は,販売店に製品を納めても納めても足りない状況が続く。発売から程なく,2008年末から年明けにかけて,ようやく増産が本格化する。