【前回より続く】

 「やっぱりもう少しだけ厚みを減らせませんか。あと1mmでいいですから」――。ウィルコム 営業開発部 企画マーケティンググループ 課長補佐の須永康弘からこう告げられたシャープの技術陣は絶句した。2006年2月上旬,両社は後に「WS007SH(W-ZERO3[es])」として発売される新機種の仕様検討に入っていた。それまでの1カ月近く知恵を絞ってきたシャープの「最終案」。だがそれを見たウィルコム側の責任者である須永は,まだ納得しなかった。

 「W-ZERO3」はウィルコムとシャープが共同開発した携帯情報機器(PDA)型のPHS端末である。前年の2005年12月14日に発売した初代機「WS003SH」は,出荷台数が5万台を超え,まだまだ売れ続けていた。熱が冷めないうちに派生機種を投入してラインアップを充実させたい。WS007SHの開発を支えたのはこの思いである。しかし,発売予定日の2006年7月末まで既に6カ月を切っている。開発を少しでも先に進めたいのに,筐体サイズすらなかなか決まらない。

待ち受け時間もケータイ並みに

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 WS007SHに与えられた開発テーマは「ケータイらしさ」。PDAの要素を色濃く残し,ノート・パソコンの小型版を目指したWS003SHに対して,VGA表示可能な液晶パネル,QWERTY配列のフル・キーボードといった要素は残しながら,「もう少しケータイ寄りのユーザーにアピールする」(須永)ためだ。具体的には,ケータイらしく片手で操作できるようにするため,テンキーを付ける。視認性と解像度のバランスを考えて液晶パネルに2.8型を採用し,本体の横幅を56mmに抑えた。

 電子回路は,無線LAN機能を取り外したほかはWS003SHの設計を踏襲することに決めた。回路設計の中心になったシャープ 通信融合端末事業部 第1技術部 副参事の松村浩至はその理由を,「新規のソフトウエアを開発するスケジュールの余裕がなかったから」と説明する。LSIを変更したり,新しく機能を追加したりすると,ソフトウエアでの対応が必須になる。

 機能要件を決める上でネックになったのは,連続通話時間や待ち受け時間の仕様だった。WS003SHの待ち受け時間は200時間だったが,須永らはこの数値を「ケータイらしくない」と考えていた。「やはり500時間は欲しいというのが本音」(須永)。

 とはいえWS007SHは,WS003SHで使った主要なLSIをそのまま使うのが前提である。省電力を達成する手段はあまり多くなかった。「この条件の下では改良に限界がある。待ち受け時間を延ばすなら2次電池の容量は減らせない」(松村)。シャープの技術陣は,従来と同じ容量1500mAhの2次電池を前提に,ほかの部品のレイアウトを検討した。須永が「厚みを減らせ」とダメを出したのは,こうした検討の末に出来上がった最終案だった。

WS007SHの2次電池モジュール(右)ではWS003SHのそれ(左)より,長さを減らした代わりに厚みを増やして,同じ1500mAhの容量を確保した
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