横幅60mmはあり得ない

 須永の要望を受け,シャープは製品のコンセプトを練り上げた。開発陣は,WS003SHの際立った特徴はVGA表示が可能な液晶パネルとQWERTY配列のフル・キーボードにあると考えていた。新機種では,この二つの要素を残した上で,横幅を携帯電話機並みに抑え,テンキーを付け加える。この要件を満たすには,WS003SHから何かを取り去る必要がある。松村らが目を付けたのは無線LAN機能である。「部品配置を考えると,無線LANありでは解がないと結論した」(松村)。

 開発の最大のネックは「携帯電話機並み」の横幅だった。当初シャープは,60mm近い横幅のデザインを提案している。製品になったWS007SHの横幅56mmに比べると4mmも広い。機能部品の詰め込みやすさを考慮した結果だったが,須永にあえなく却下される。「市場で売れている携帯電話機で横幅50mmを超えるモデルは無い。60mmはいくら何でもあり得ない」(須永)。

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 一方で中川らは液晶パネルの視認性にこだわった。パネルが小さくなり過ぎると,VGA表示では小さな文字が読めなくなる。「できるだけ大きな液晶パネルを使いたかった」(中川)。彼女らが目を付けたのは,ちょうどそのころ社内の小型液晶パネル部門が製品化を計画していた2.8型の液晶パネルである。中川は2.8型パネルが収まるギリギリの線と主張し,56mmの横幅を須永に無理やり了承させた。

WS007SH(上)とWS003SH(下)の基板。右は液晶パネル。筐体の幅は液晶パネルの大きさとの兼ね合いで決めた
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 QWERTY配列のフル・キーボードでも試行錯誤を繰り返した。横幅が狭まる分,WS003SHと比べるとどうしてもキーの間隔が狭くなる。キーの大きさ自体も小振りになってしまう。これを嫌って当初は5列配置から数字キーの列を抜いた4列配置も検討した。やっぱりどうもしっくりこない。

 機構部分の設計を担当したシャープ 通信融合端末事業部 第1技術部 係長の大家おおいえ正之らが中心になって,5列配置のキーボードの試作品を作って検討した。この結果,使い勝手がさほど損なわれないことが分かったため,5列配置で製品化することにした。 =敬称略