度重なる打ち合わせの結果,試作基板が完成する前の7月末の段階で,「基板や電池のサイズ,主な部品のレイアウトを確定した」(シャープの大家)。並行して大物の樹脂部品の金型の発注も済ませていた。つまり開発陣はこれ以降,何か不具合が発生しても部品の配置などを大きく変更できないという
電磁雑音対策を過剰に設計
W-ZERO3には音声通話用のCODECチップ,カメラ,無線LANなど,基になったザウルスには無かった機能を多数追加した。機能が増えたにもかかわらず,基板を小さくする必要があるため,基板は新たに設計した。従来より小型の部品を採用し,実装ルールを変更して詰め込んだ。
回路基板の設計を担当したシャープ 通信融合端末事業部 第1技術部 副参事の松村浩至は,「8月上旬にウィルコムの試験場で実施した適合テストが最初の山だった」と述懐する。松村らにはPHS機器の開発経験が皆無だったからだ。そのため,「本体から発生する電磁雑音がPHSの通信に与える影響を事前に見積もるのが難しかった」(松村)。
本来なら未経験の機能だけを「技術試作」して,発生する雑音の影響を測定したり,電磁シールドの効果を確かめたりするべき場合だ。この結果を踏まえて,製品向けの基板の設計に入るのが普通である。だが,W-ZERO3の開発スケジュールではこうした手順を踏む余裕がない。
そこで松村らは基板設計に,考え得る電磁雑音対策をすべて盛り込んだ。例えば,高周波の雑音発生源になりやすいマイクロプロセサやメモリの周辺を,金属のシールドで覆った。「対策が過剰なら後から外せばよいと考えた」(松村)。大は小を兼ねるが,逆は難しいと割り切ったわけだ。
8月上旬,松村らは試作品をウィルコムの試験場に持ち込む。出来栄えはお世辞にも良いとはいえなかった。実はソフトがまともに動いておらず,適合テストに合格するはずもなかった。それでも,「試作品でどの程度の性能かを早く確かめたかった」(松村)。
松村はこの時のテストで,ほぼ満足いく成果を得て,「これで(製品化は)何とかなるのかなと安心した」という。最終的な製品では十分な性能を確保できたため,金属シールドは取り外した。ただし製品の基板には取り付け用のパターンが今も残っている。
OSの起動まで1カ月
松村らによる試作基板が完成したことで,高木らのチームによるソフトウエアの開発にやっとエンジンがかかる。OS上で動くアプリケーション・ソフトの開発はエミュレータを使ってある程度進められたが,ハードウエアが関連する部分は「試作基板が完成しないと手も足も出なかった」(高木)。