Windows Mobileの強引な採用は,開発がスタートしてすぐに問題を引き起こした。Windows Mobileをどう使うか,なかなか決まらないのだ。当時,Windows Mobileの最新版5.0はまだ開発中だったことも手伝い,情報の入手に四苦八苦した。「何しろろくにWindows Mobileの資料がない。こちらからごり押ししたのに,実はWindows Mobileがどんなモノかもよく分かっていなかった」とウィルコムの須永は述懐する。ちょっと調べれば済むと思っていた作業が,ただでさえ少ない残り時間をいたずらに食いつぶした。4月と5月はほぼWindows Mobileで何ができるのかを調べるだけで終わった。「あぁ,おれたち何も知らないんだと悟っただけだった」(須永)。

 6月に入りパソコン上でエミュレーターが稼働し始めて,ようやくソフト開発が動き出す。すると今度はMicrosoft社の対応の遅さが行く手を阻んだ。技術的な問い合わせをしても対応に時間がかかる。回答を待っている間に時間がどんどん過ぎてしまう。

 発売まで半年しかないこの時点で,複数あるWindows Mobileのパッケージのうち,どれを使うかすら決まっていなかった。検討の俎上(そじょう)にあったのはPDA用の「Windows Mobile for Pocket PC」と第3世代(3G)携帯電話機用の「同for Smartphone」の二つ。前者を使う場合,PHSを含む電話関連の機能を全部一から開発する必要がある。3G携帯電話機をターゲットにした後者は,PHSの通信システムに適合させる作業が要る。どちらを使った方が短期間で開発できるかを判断するための技術情報が不足していた。こうした情報は,Microsoft社の米国本社にいる開発チームと直接やりとりしないと入手できない。

 とはいえ須永は,Microsoft社の対応の鈍さを一概に責められないと感じていた。「12月に製品化というスケジュールは当事者である我々ですら半信半疑の状態。ましてや海の向こうにいるMicrosoft社の開発者が信じなくても無理はない」(須永)。

 ならば,こちらが本気であることを先方に分かってもらうしかない。須永は,Microsoft社に乗り込み直談判しようと腹をくくる。 =敬称略