製品開発における競争力強化の一環として,シミュレーションによる設計プロセスの革新に取り組んでいる企業は多い。いかに設計の上流段階で機能,品質,コストを作り込めるが企業の競争力を左右する時代だからだ。中でも,近年は樹脂流動解析への注目度が高まっている。セイコーエプソンでも,樹脂流動解析の活用によって試作回数を削減して,量産化までのリードタイムを短縮するための仕組みづくりに取り組んでいる。

形状と成形条件の両面から

図1●樹脂流動解析モデルの一例
図1●樹脂流動解析モデルの一例

 解析による設計検討の一例を紹介しよう。図1は,従来品を流用した樹脂成形品。ささいな変更だったため,成形性を十分に検討せずに量産に入った。ところが,一部にショートショット*が発生することが分かった。

フロント・ローディングを加速

 そこで,樹脂流動解析を用いて現状モデルでの成形性を評価し,適正な成形条件と,よりロバスト性の高い形状を探った。まず,問題のあった部品を解析したところ,充填途中で樹脂温度が低下してショートショットを引き起こしていることが分かった(図2)。設計変更によって,流動パターンが従来部品と違ってしまったのである。

図2●樹脂流動解析で明らかになった問題点
図2●樹脂流動解析で明らかになった問題点
温度が下がり,ショートショットが発生している。
表●成形条件と充填性
表●成形条件と充填性

 次に,改善案としてボスの肉厚を増すとともに,ゲートを追加したモデルを解析してみた。すると,ショートショットを解消できることが分かった。さらに,そのモデルを使い複数の成形条件で成形性を検討してみた(表)。現行モデルに比べ,改善モデルの方がより広い成形条件に対応できることが分かる。つまり成形条件のロバスト性が高まり,充填時間や樹脂温度が変動しても安定した量産が期待できるということだ。