例えば、ある企業のトップが社員を前に「現在の世界不況の中で、企業として成長を続けるには、まずは徹底したコスト削減。そして、新たな価値を創造する技術革新を成し遂げなければならない」という話をしたとしよう。しかしこれは、額面通り受け取れないことが多い。

 価値を創造する技術革新は、未来を予感させる心地よい言葉でイノベーションの定義そのものだが、漠然とした言葉でもある。実用化までに時間もかかるし、投資も必要だ。だから、不況時に強化するには、経営トップに強い意志と覚悟がなければできない。さらに、どんな技術分野に経営資源を集中するかという戦略も問われる。

 それがないと結局、前段のコスト削減のみが実施され、しかも、係長のような専務取締役が張り切って、締め付けが厳しくなる。すると、現場の雰囲気が沈んで、イノベーションに挑むための活力が失われてしまう。コスト削減は企業活動の基本だが、それだけでは先はない。

 ここで強調したいことは、イノベーションは成長の糧である半面、それに挑戦するには漠然とした覚悟ではダメだということである。イノベーションの目的や意味について徹底的に考え、腹の底から、それこそ魂のレベルで理解する必要がある。