異種材料の接合が可能ならば,比重の軽い素材への転換が容易になる。面での接合ができれば,点接合の場合よりも接合対象の剛性を高められ,高剛性化によるゆとり分を接合対象の薄肉化に振り向けることが可能になる。
接着剤ならこうしたことが実現できる上,微小な部品や薄い部品でも接合できるし,シールとしても機能したりする。こうした利点から,自動車や航空機,鉄道車両の軽量化,電気電子機器の小型・薄型化などの進展に相まって,接着剤が再び注目を集めている。
それによって,接着剤がさらに幅広い用途で使われるようになり,接着剤へのニーズが高度・多様化。 接着強度が高く大きな負荷がかかる用途で使える,柔軟性に優れ振動に強い,酸素を遮断して酸化を防止できる--など,適用対象ごとにより適した接着剤が求められるようになってきている。
そして,それに応えようと,既存の接着剤の枠にとらわれない,さまざまな分野での知見を接着剤の開発に生かそうというメーカーや研究機関が現れ始めた。食品包装材,コネクタ,建築用シーリング材などでの経験を基に,万能型ではなく,ガスバリア性や硬化速度,柔軟性,接着強度などある種の特性を狙い撃ちして強化した個性派の新型接着剤を次々と開発している。
連載
個性を磨く新型接着剤
目次
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最終回:収縮率が小さく強度が2倍
企業だけではなく,大学からも秀でた特性を持つ接着剤が生まれている。近畿大学分子工学研究所所長兼教授の遠藤剛氏,同研究所准教授の須藤篤氏らのグループは,収縮率が小さく汎用エポキシ樹脂の2倍と強度が高い1液型エポキシ系接着剤を開発した。
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第4回:柔軟で素早く固まる
自動車用や建築用の接着剤を手掛けてきた横浜ゴム。そうした同社が,これまでの技術的な知見を生かして電気電子機器向けに開発したのが,変成シリコーン系の接着剤「FLASH ONE」だ(図)。幅広い被着材に適用でき,約3分(20℃,55%RH)と素早く表面が硬化し(タックフリータイムが短い),柔軟性もA硬…
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第3回:作業はゆっくり硬化は数秒
接着硬化のタイミングをコントロールできるシアノアクリレート系接着剤「UV・タフ」を三宅応用科学研究所(本社京都市)と共同で開発したのがプロフ精密である(図)。プロフ精密は,コネクタ,スイッチ,音響部品など数mm角の小さな部品をOEM(相手先ブランドによる製造)供給しているメーカー。コネクタなど向け…
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第2回:ガスバリア性が約100倍
「もともとガスバリアに関する知見があった」。こう語るのは,汎用エポキシ系接着剤の約100倍というガスバリア性を備えたエポキシ系接着剤「マクシーブ」を開発した,三菱ガス化学の芳香族化学品カンパニー企画開発部の沓名貴昭氏だ。同社が接着剤を開発するのは,今回が初めて。きっかけは,同社の「MXナイロン」事…
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第1回:接着剤への注目度高まる自動車/電気電子機器
車体や骨格の素材を鋼よりも比重の軽い素材に切り替える。車体や骨格の剛性を維持したまま,それを構成する素材の肉厚を薄くする。これらは,自動車の軽量化に向けて多くの自動車メーカーが取り組んでいる代表的なアプローチである。そして,こうしたアプローチを具現化する上で重要な役割を担っているものの1つが接着剤…