バーチャル試着のメリットは、上下の服、靴、鞄、帽子、メガネなど、さまざまアイテムに応用できることだ。また、購入履歴と協調させることで、ユーザーが以前購入したアイテムと組み合わせた試着を実現できる。実際に着替える必要がないので、商品を汚す心配がないというメリットもある。

高齢者向けにも有用

 Kinectではコントローラを持つ必要がなく、ゲーム機やコンピュータの存在を意識する必要がない。このことから、高齢者への活用も考えられている。奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科後期課程の船谷浩之氏などは、「NAIST Ballpool」注1)というアプリを開発した。Kinectでロボットを動かしてボールを触るエクササイズを行うものだ。

注1) http://www.youtube.com/watch?v=LuNdc-Ejyjg

図2 老人ホーム向けのゲームも
奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科後期課程の船谷浩之氏などが開発した「NAIST Ballpool」。Kinectでロボットを動かしてボールを触るエクササイズを行える。
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 ある老人ホームで、このアプリを80歳代や90歳代の入居者に体験してもらったという(図2)。船谷氏の祖母も実際に体験し、「楽しかった」との感想を寄せたとのことだ。また、Kinectを使ったアプリでは、自分の体の動きがそのまま見た目に反映されるため、自然に体を動かすことができる。実際に「体操やダンスよりも自然に体が動いた」という感想も多かったという。Kinectは、従来はコンピュータの利用が難しかった高齢者向けにも有用な周辺機器だと言える。

医療や芸術にも応用例

 YouTubeやKinect Hacks注2)といったWebサイトでも、Kinectを利用したさまざまなアプリが紹介されている。

注2)http://www.kinecthacks.com/

 ゲーム分野では、Kinectを使って現実の動きと仮想空間の動きをリンクさせるものが多く見られる。例えば、映画「スター・ウォーズ」に出てくるライトセーバーのような光る剣をプレーヤーに合わせて表示させるアプリがある。

 動作マッピング系では、「プレーヤーの動作を仮想空間内のキャラクターに当てはめ、仮想空間のキャラクターを操作するアプリ」や「プレーヤーの動きを現実のロボットにマッピングさせて操作するアプリ」などがある。

 医療分野では、手術時の情報表示の入力サポートとしてKinectを使う事例や、指先を認識するように改良したソフトウエアを作成し、リハビリテーションのサポートに利用する事例などがある。

 また、メディア・アートと呼ばれる芸術分野でもKinectは盛んに利用されている。メディア・アート分野では「openFrameworks」という専用フレームワークが主流になっている。openFrameworksでOpenNIを利用できるようにする「ofxOpenNI」というソフトウエアもよく使われている。

現状では課題も残る

 ただし、現状のKinectに課題が全くないわけではない。まず「入力系の操作をKinectで行う場合、2次元の表示に対して3次元の入力は必ずしも適していない」という問題がある。例えば、マウスの代わりにKinectを使う場合、継続して入力操作を行うと、腕がとても疲れてしまう。将来的には、表示も3次元に適した形に変化していく可能性が考えられる。例えば、「Kinect Earth Move」注3)では、3次元の入力を使って3次元の地球儀オブジェクトを操作できる。

注3) http://kinectearthmove.codeplex.com/

 また、「Kinectの操作ではユーザーが触れるものがないため、体に対する物理的なフィードバックがかからない」という問題もある。何らかの手段でプレーヤーに対するフィードバックを行えるようになると、より使いやすい入力機器になるだろう。