例えば,メッシュ分割が不十分な場合,計算結果の応力値が低くなる場合がある。特に,コーナー部の応力集中部を評価したい場合にはその傾向が顕著になるので注意が必要だ。一般に突起物の根元などの曲率半径が小さい部分には応力が集中しやすい。特にコーナーR部では,十分な数のメッシュに分割するとともに,要素形状の縦横比をできるだけ1に近くなるようにしないと,応力値が小さく算出される。

 そうかといって,どこに応力が集中するか分からないことを理由に,あらゆる領域を細かいメッシュで分割するのも妥当ではない。データ量が増えてしまい,表示に時間がかかったり,場合によっては表示できなかったりといった問題が発生するからだ。

 計算時間とのバランスも考慮しなくてはならない。一般的にはメッシュが細かいほど精度は高まるが,メッシュが細かくなるほど計算にもその分だけ余計に時間がかかる。確かに,非常に微細なメッシュで一様に分割してしまえば簡単だが,時間に制約のある日常の設計業務の中では,それは難しい。実用的な精度と計算時間のバランスを取るにはどの程度に分割すべきか,どういうメッシュ形状が望ましいのかを知っておくべきなのだ。

 二つ目の境界条件の設定もしかり。有限要素法で解析する場合にはソリッド要素ならX/Y/Z方向の3自由度,シェル要素ならそれに加えてX/Y/Zの回転方向の6自由度が,モデル上のどこかで拘束されていないと数学的に境界条件の数が不足し計算できないことになる。この条件を満たさないまま計算できないと悩んでいる設計者をしばしば見掛ける。物性値の入力で単位系を混在させる,材料選択を誤っているといった初歩的ミスも少なくない。

 三つ目の解析結果の判断も予備知識なしでは難しい。例えば,境界条件で固定した部分は全体の力をその境界条件の部分で受けてしまうため,計算上はその近傍に大きな応力が発生する場合がある。しかし,それはあくまで数学モデルとして表現した際に擬似的に発生した応力。これに気付かないと本当に最大応力が生じている部位を見落としてしまうことになる。

 以上のような初歩的なミスは,解析を経験した人なら1度は経験しているだろう。だが,こうしたミスに気がつかないと,そのまま試作して,実験に至って初めて問題に気付くという事態に陥る。CAEは万能薬のようだが,使い方を一歩誤ると毒にもなりかねないのである。