Kinectには改善点は残るものの,重要なのはコントローラやリモコンなど専用端末が不要なジェスチャー入力技術が低価格な民生機器に搭載され,実際に数多くのユーザーやUI設計の専門家などがさっそく評価を進めているという事実である。

 Kinectの登場が,専用端末が不要なジェスチャー入力技術のさらなる進展を促すのは間違いない(図9)。

図9 Kinectの登場が距離画像センサの世界を変える
Kinectは,人間の動きをスムーズに検出できる画像距離センサの用途拡大に貢献しそうだ。高機能な距離画像センサの低コスト化を導き,普及を促進する可能性がある。
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  Kinectの登場以前は,こうした技術を実現するには,精度は高いが高価なTOF(time of flight)方式の距離画像センサを使うか,精度は低いが安価なカメラを用いる画像認識技術を使うかのどちらかしかなかった。いわば,「帯に短し,たすきに長し」の状態だったのである。

TOF(time of flight)=距離計測法の一種。光源から対象物に光を照射して反射した光をカメラでとらえ,その反射光の到達時間から対象物の距離を算出する。直接到達時間を計測する方法と,光源を変調し,反射光との位相差から到達時間を算出する方法がある。

 ここに高性能,かつ大規模な量産効果を見込んで安価に設定されたKinectが現れたことで,端末不要のジェスチャー入力技術の採用の機運が高まった。それはより一層の技術開発や低コスト化を導くだろう。

 例えば機能向上に関しては,屋外のような明るい場所でも利用できたり,指などの細かい動きにも追従できたりする距離画像センサが開発される可能性がある(図10)。

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図10 ジェスチャー入力技術の開発の方向性
コントローラ不要のジェスチャー入力技術をさまざまな電子機器に搭載するには,センサの機能向上や低コスト化が必須となる。さらに,新たな用途や,ジェスチャー入力専用のUIを生み出すことも欠かせない。

 既にTOF方式では,パナソニック電工が2万lxという明るい場所でも人の動きを検出できる距離画像センサを開発している(図11)。2万lxは,太陽光が差し込むような窓際と同程度の明るさだという。通常のTOF方式の距離画像センサは,屋外など明るい場所では雑音が多くなり,正確な計測をしにくくなる。開発品は,明るい場所でも操作できるようにすることで,専用端末が不要なジェスチャー入力技術をさまざまな場所に展開しやすくした。

図11 明るい場所でも利用可能に
パナソニック電工は,太陽光が差し込むような窓際の明るい場所でも人の動きを検知できる,TOF方式の距離画像センサを販売中だ。同社が開発した特殊なCCDカメラを利用することで,2万lxという環境下での動作検出を可能にした。
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 同社の距離画像センサは光源に近赤外LEDを,受光部にCCDカメラを搭載する。明るい場所でも距離計測ができる特殊な構造のCCDを開発したことで,2万lxの環境下に対応した。屋内での利用を前提としているが,実力的には,晴天時の昼間の太陽光照度に相当する10万lxでも距離画像データを取得できるという。