ハードウエアは逆ザヤ

 もっとも,参照デザインを利用したとはいえ,製品化は一筋縄ではいかなかったようだ。Kinectを分解してみると,最初の製品だけあって,「設計がこなれていない」(分解した技術者)部分が散見された(図4)。

図4 「コストより時間優先」の内部
Kinectは,前段部にレーザやカメラ,中段部に小型基板と中型基板をそれぞれ1枚,後段部に大型基板1枚を搭載する。対象物との距離を演算するPrimeSense社のSoCは,中段の中型基板上に配置されている。この中型基板の裏には,多数の試験用パッドがある。これは,カメラやレーザの動作確認用とみられる。ネジ穴付きのスペーサを使うなど,時間優先で設計した様子が見られる。
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 このため,「原価は少なくとも100~150米ドル程度はするだろう」(同技術者)。Kinectの販売価格は約150米ドルなので,恐らくKinect単体の販売では利益が出ていない“逆ザヤ”状態だ。当面はKinect対応ソフトの販売や,Kinectが牽引するXbox 360の売り上げ増などで,利益を確保する戦略のようである。

 Kinectの製造原価が高いとみられる理由をいくつか示そう。例えば,Kinectの内部は前段/中段/後段の「3段構造」を採っているが,この各段の間隔を一定にするために,筒型のスペーサを用いている。この部品は,「通常,参照デザインや試作ボードに利用されるもので,製品に利用する例はまれ」(前出の技術者)だという。

 ネジ留めも多用しており,各種基板の接続や,筐体を閉じる所などでネジが見られた。ネジが増えるほど部材コストは上昇し,ネジ止めの工数も増える。つまり,コスト削減よりも年末商戦の出荷に間に合わせるために,時間短縮を優先した様子が内部から見て取れる。

レーザの取り扱いに苦慮

 近赤外レーザの利用にも苦心した形跡がある。レーザに対して,念入りともいえる温度調整を施していた。

 具体的には,熱伝導性の高い大型の金属部品上にレーザを搭載し,金属部品とレーザの間に冷却用のペルチェ素子を配置している。加えて,冷却ファンのそばにレーザを搭載している。こうした処置は,温度変化とともに生じるレーザの発振波長の変化を抑えるためとみられる。波長が変わると,投影するレーザ光のパターンも変わる恐れがあるためだろう。

 そもそも,光ディスク装置を除き,レーザを民生機器で利用する例は少ない。ましてや,民生機器から外部にレーザ光を照射することはまれ。それだけに,入念な熱対策を施したようだ。

 レーザと共に,距離画像センサに必須である近赤外カメラの動作確認も入念に行ったとみられる。実際,レーザやカメラが接続されている中段にある中型基板の裏には,動作確認で利用するパッドが多数残されている(図4)。