COLLEGE 製造業の“本当”を探求
 

第7回:スペースを巡る攻防(上)

高野 敦=日経ものづくり
2011/10/20 00:00
出典:日経ものづくり、2005年5月号 、 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
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【前回より続く】これまでにないクルマには,新しい名前こそ相応(ふさわ)しい。新型車のコンセプトに絶対の自信を持つ齊藤政昭ら次世代高級セダン開発陣は,それまでの最高級セダン「レジェンド」に替わる機種名を検討する。しかし急転直下,レジェンドの名を受け継ぐことが決まった。

右から齊藤政昭,瀧口士郎,山本武
現在はそれぞれ本田技術研究所栃木研究所上席研究員,同C0開発ブロック主任研究員,同A0開発ブロック主任研究員。写真:田中昌

 ブランドともいうべき機種名は,検討事項のはずだった。少なくとも,齊藤政昭ら次世代高級セダンの開発陣は,そう思っていた。あの販社向けのイベントが開催されるまでは。

 あの日,ゲストを前に壇上であいさつするホンダ幹部の口を突いて出た言葉は,「レジェンド」を継承する,というもの。この瞬間,検討事項は一転,既成事実へと変わった。

「今から思えば当たり前のことでした。名前を変えるという発想はそもそも,3代目レジェンドに比べ,思い切り『走り』に振ってすべてを一新したクルマを造りたい,その際,レジェンドの名前から来る既成のイメージに縛られたくないという思いから生まれたもの。しかしそのクルマの市場を考えれば当然,乗り心地や静粛性といった『質』もこれまで以上に高いレベルで求められる。ブランド名を変えれば,そのしがらみから解放されるというのは甘い考え。何より,それは,レジェンドを待ち続けているお客さまに対する背信行為。そのことをあらためて思い知りました」

 こう振り返る齊藤。彼はあれから,不満くすぶる開発陣を前に,レジェンドの名を受け継ぐこと,そしてその意味を説明した。当然,疑問の声,反対の声が上がる。これまでに散々議論した,SH-4駆の性能を引き出した走りとレジェンドとしてのクオリティーの両立の難しさを盾にして。

 しかし,齊藤の毅然(きぜん)とした姿勢に,開発陣全員のベクトルがそろう。走りと質を高度な次元で両立させたクルマの開発,前人未踏の高みへの挑戦。これこそが,齊藤の下に集まった男たちの使命である,と。

 事実,彼らの前には幾多の困難が立ちはだかる。SH-4駆の力をフルに引き出すためには,高出力・高トルクエンジンが欠かせない。しかしこの二つの武器で走りの性能を追求すればするほど,騒音や振動などはより深刻化していく。今回の開発では,こうした二律背反の関係にある問題に対し,高いバランス点を見つけ出していかなければならない。それには,彼の力が必要だ。

 齊藤が受話器を握る。1本目。内線一覧表を手に4ケタの番号を押す。用件を伝え,電話を切る。少し時間を置いてから再び受話器を取り上げる。2本目。今度は内線一覧表を手にせず記憶に任せて4ケタの内線番号を押した。

「もしもし」

「あっ,齊藤さん。お久しぶりです」

 電話の相手は瀧口士郎。齊藤とは「シビック」や「インサイト」などで幾度も開発を共にした男だ。ひとしきり差し障りのない話が続く。それが途切れると,齊藤は切り出した。

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