崩壊しつつある秩序をPSSが再構築
宮澤 篤氏
東京工芸大学
芸術学部 ゲーム学科 准教授

 これまでのゲーム業界の秩序ではメディア(ゲーム機)がまず登場し、この枠の中でコンテンツ(ゲーム・ソフト)を作ってきた。つまり、ゲーム業界においての支配者はゲーム機メーカーであり、ゲーム・ソフトの開発者ではなかったのだ。

 スマートフォンの登場で起こりつつあるのは、この秩序の崩壊である。Google社はOSを作るが、ハードウエアやゲーム・ソフトを実行するためのミドルウエアは規定しない。この結果、ゲーム・ソフト開発者の側がハードウエアやミドルウエアを規定することが可能になった。

 SCEのPSS戦略は、この混沌とした世界に秩序をもたらす動きだ。ハードウエアは直接作らないが、ハードウエアの仕様を規定し、恐らくミドルウエアも規定するからだ。

 任天堂のすごさは、自らが先頭に立ち、ゲームが面白くなるようにゲーム・ソフト会社を指導する点にある。これをなし得たのは、任天堂が出すゲームは面白いという、ブランド・イメージが確立したからだ。PlayStationでブランドを確立したSCEが、PSSでこのモデルに近づこうとしているのではないか。

混乱期は2012年まで続き、2013年に収束する
細川 敦氏
メディアクリエイト
代表取締役

 スマートフォン向けゲーム市場の将来を見通すのは正直難しい。多くの企業がこの市場で主導権を握ろうと続々と参入してきており、まさに混戦状態だからだ。

 中でも、Android向けゲーム市場は「無秩序」な状態にある。さまざまなバージョンのOSが混在する上、利用する機器の種類も多い。そのため、ゲーム・ソフト開発者は、開発したゲーム・ソフトの動作確認に苦労している。存在するゲーム・ソフトも玉石混交で、面白いものもあれば、つまらないものもあり、ユーザーも困惑している。

 それゆえ、このAndroidの世界に「秩序」をもたらした企業こそが、ゲーム・ソフト開発者やユーザーの支持を集め、Android搭載機向けゲーム配信事業の有力者となれるだろう。

 2012年までこの混乱は続き、2013年ごろに収まるとみている。そういった意味で、2011年初頭にSCEがPSSを発表したのはよいタイミングといえる。

 スマートフォン向けゲーム市場は、現在は先行者利益が出ている段階であり、混乱が収まる2013年ごろに市場の見取図が鮮明になるだろう。

モバイル・ゲームはパソコンの歴史を繰り返す
前田 栄二氏
SMBC日興証券
証券調査部 シニアアナリスト

 スマートフォンが携帯型ゲーム機を駆逐してしまうとは考えていない。ゲーム・ソフト開発者が心血を注いで作るゲームには、専用機が必要だからだ。これは、据置型ゲーム機とパソコンとがすみ分けていることを考えると分かりやすい。

 据置型ゲーム機は約5年に1回アップデートを行い、その時代の最新のパソコンと同じような性能を盛り込む。そのため、ゲーム・ソフト開発者はこのマシンの処理性能を存分に引き出したゲームを作れる。

 一方、パソコンにおいては、先進ユーザーのマシンは据置型ゲーム機と同じか、これを超えるような性能を持っているかもしれないが、普及機の性能はゲーム機よりも低い。そのため、ゲーム・ソフト開発者は、幅広い層に遊んでもらうために、妥協したマシン性能を前提にしてゲーム・ソフトを作らなければならない。

 スマートフォンも同様だ。高性能のスマートフォンの性能はNGPやニンテンドー3DSといった携帯型ゲーム機並みかもしれないが、普及価格帯の端末は専用機に及ばない。そのため、ゲーム・ソフト開発者はゲーム・ソフト開発で妥協しなければならない。