現在ソニー・グループは、複数のコンテンツ配信サービスを手掛けている。AV機器に映像や音楽などを配信する「Qriocity」や、PS3やPSPといったゲーム機向けにゲームや映像、コミックなどを配信する「PlayStation Network(PSN)」、そして電子書籍端末向けに書籍コンテンツを配信する「Reader Store」などである。

 将来的には、これら複数の配信サービスをQriocityに統合し、すべてのコンテンツを、Qriocityを通じてソニーのデジタル家電に配信することになりそうだ注3)。将来的には、PSSもQriocityにつながるだろう。

注3) QriocityとPSNは既に共通のサーバーを利用するなど、ネットワーク・プラットフォームを共用している。そのため、PSNアカウントとウォレットをQriocity上で利用できる。

 既にその萌芽は出ている。2011年秋以降に登場する「Sony Tablet」だ。この1台で、Qriocityを通じて音楽と映像、PSSを通じてゲーム、そしてReader Storeを通じて電子書籍の配信を受けることができる。

 2011年4月時点で、PSNの累計ユーザー・アカウント数は約7700万に到達した。この事例をスマートフォンの世界に持ち込むことができれば、スマートフォンのユーザーがゲームだけでなく、音楽や映像コンテンツをソニー・グループの配信サービスを通じて購入する場面も増えると期待できる注4)

注4)ただし、2011年4月に発生したPSNやQriocityへの不正アクセス事件の再発防止が、ソニーのコンテンツ配信サービスの成否を握るだろう。

 「Qriocityが失敗すれば、ソニーは単なる『ハード屋』に終わる」(ソニー関係者)だけに、 スマートフォン向けゲーム配信事業の成否は、ソニーのデジタル家電事業全体の命運を握っているといっても過言ではない。SCEの平井氏が、ソニーの代表執行役副社長に就任したことも、ソニー・グループにおけるゲーム事業の重要性を裏付けている。

FacebookやSamsungも参戦

 Androidの世界で、ゲーム配信事業の覇権を握りたいソニーだが、それは一筋縄ではない。参入障壁が低い故に、ライバル企業が多いからだ。SNS事業者やパソコン向けゲーム配信事業者、小売店事業者などがこぞってAndroidによるゲーム配信事業に参入しつつある(図1参照)

 SNS事業者では、全世界で6億人以上の会員数を誇るSNS運営企業の米Facebook社や、従来の一般的な携帯電話機(いわゆるフィーチャーフォン)向けソーシャル・ゲームで急成長を遂げたDeNAやグリーなどが、スマートフォン市場に乗り込んできた。

 パソコン向けゲーム配信サービスで急成長する企業も、続々とスマートフォン市場に注力し始めている。例えば、韓国で最大級の検索ポータル・サイトとオンライン・ゲーム配信サービスを運営し、全世界に約8500万の会員を持つ韓国NHN社は、約100億円を投じてスマートフォン向けゲーム開発会社を設立する。   

 小売店やオンライン・ストアも、スマートフォン向けゲーム市場に向かっている。米国最大級のゲーム・ソフト小売店であるGameStop社や、世界最大級のオンライン・ストアである米Amazon.com社などがその例だ。