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第4回:反撃の狼煙

富岡 恒憲=日経ものづくり
2011/11/10 00:00
出典:日経ものづくり、2004年7月号 、pp.233-237 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
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 1995年,カシオ計算機の「QV-10」のヒットにより,コンシューマー向けデジタルカメラ市場が立ち上がる。この新しい市場に,カメラメーカー,電機メーカーがこぞって参入する中,キヤノンだけは蚊帳の外に置かれていた。当時手掛けていた業務用デジタルカメラの開発に手間取っていたからだ。後発のハンデを取り戻そうと,新市場に打って出た同社は,APS方式の銀塩カメラ「IXY」のコンセプトを取り入れたデジタルカメラを次々と投入する。しかし期待とは裏腹に,上位各社との間にあいた大きな溝は一向に埋まる気配がない。

 コンシューマー向けのデジタルカメラを作りたい。このキヤノン開発陣共通の夢は1998年4月,ついに「PowerShot A5」として叶う。そこには彼らの夢と一緒に,約2年前に発売し大ヒットを記録したAPS(アドバンスト・フォト・システム)方式の銀塩カメラ「IXY」の技術を詰め込んだ。今度こそは売れる。幾度となく辛酸をなめてきた開発陣の期待は膨らむ。

 「どうだね,売れ行きの方は」

 PowerShot A5の発売から数カ月。会議室に顔をそろえた開発陣が営業担当者の報告に耳を傾ける。

 「まずまずでしょうか。計画数量は何とか確保していますので。ただ…」

 「ただ,何だね」

 「勢いがありません。市場全体としては,カシオのQV-10が登場してから,参入が相次いで活気付いています。実際,1997年の国内市場の出荷台数は前年比2.5倍で,100万台を突破しました。この勢いは,ことしさらに増しているんですが…」

 「うちだけがその波にいまひとつ乗り切れていない,というわけだな」

 「ええ,そういうことです」

 「開発の諸君,聞いての通り,相変わらず状況は厳しい。そこで,だ。ここからは,なぜうちが市場の波に乗り切れないのか,徹底的に話し合いたい。みんな,忌憚のない意見を聞かせてくれ」

  パンドラの箱が開けられた。努力しても努力しても結果が出ないことに,フラストレーションが頂点に達している彼ら。開発が「マーケティングが悪い」と言えば,営業は「製品が悪い」と一歩も引かない。互いに,これまで押さえ付けてきた感情のマグマを一気に噴き出し,議論は堂々巡りを続ける。しかし彼らは,胸の内をすべてさらけ出していく過程で,負のエネルギを徐々に解放していく。頃合いを見計らい休憩が入る。すると,彼らは再び冷静さを取り戻していた。

  「他社の製品より売れないということは,悔しいけど,他社の製品より劣るということ。それを素直に認めたときに,気になることがあるんだ」

  「気になること?」

  「画素数。どうも開発が後手後手に回っているような気がする」

  「確かに,開発段階では常に最高レベルを狙ってるけど,いざ市場に出したときには,それを超える画素数の製品が既に出回っている。有効画素57万のPowerShot 600のときには80万以上の製品が出ていたし,81万のPowerShot A5のときには100万以上の製品が出回っていた」

  「今,手掛けている有効画素数130万の来春のモデルも,今春にはもうそのクラスが発売されているよね」

  「結局,消費者がうちに何を期待しているかというと,安さとかじゃなくて画質だと思うんだ。なのに,肝心の画素数競争で1サイクル遅れてしまっている。これじゃあ,買ってもらえないのも当然だよね」

  1サイクルの遅れ。それは,1996年7月に業務向けに発売した「PowerShot 600」のときの約1年に及ぶ開発の遅れを引きずったものだった。これをいかに取り戻し,いかに挽回していくか。議論はそこに収束していく。そして…。

  「うん,それが原因だとしたら,栄木君に頑張ってもらうしかないなぁ」

  一つの結論に,会議室に集まった全員が大きくうなずく。長い長い会議がようやく終わりを告げた。

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