リアル決済に進出するGoogle社の意図

 Google Wallet は機能やサービスは一見、フランスの「Cityzi」と変わりはなく、革新的なサービスで利用者を驚かせることを得意とするGoogle社らしくないサービスにも見える。しかし、筆者は、見た目は地味ではあるものの、Google Walletが今後革新的なサービスになっていくだろうとと考えている。

 Google社は、「ネット」企業である同社がPayPassを組み込んだスマートフォンを店舗でかざす、という「リアル・ペイメント」に進出した理由をこう述べている。「小売業においてEC(バーチャル・ペイメント)の占める割合は8%に過ぎない。つまり残りの92%が実店舗(リアル・ペイメント)で行われている訳である。我々はスマートフォンとNFC技術、位置情報を使ってリアルとバーチャルを結び付け、新しいコマース時代を切り開く」(NFC関連のニュース・サイトである「NFC Times」からの引用(引用先のニュース(外部リンク)はこちら))。

 この発言から、Google社にとってGoogle Walletは、新しいコマース時代を作る仕組みの第1弾のサービスであり、今後NFCを使って、ECコマースと結び付けるような、さまざまなペイメント関連のサービスを提供してくると推測する。そうしたサービスの一つとして想定できるのが、Android搭載のスマートフォンを非接触ICカードの決済端末として動作させるサービスである。今回、Google Walletが単なるPayPassによるクレジットカード決済だけでなく、クーポンなどの加盟店にメリットの大きい仕組みを用意していることが、この推測の根拠である。

 スマートフォンを決済端末の代わりに使えれば、金融機関やクレジットカード会社が多大な費用を負担して店舗に設置してきた決済端末の意味が薄れる。加盟店はAndroid marketから、将来提供されるであろう「加盟店向けwallet機能提供アプリ」をダウンロードすれば、すぐにスマートフォンをクレジットカード決済端末化できる。このような仕組みは、繁忙なスーパー、コンビニ、家電量販、専門店などには向かないかもしれないが、これまでクレジットカードの利用が進まなかった個人商店や飲食店などでは一気に普及する可能性がある。究極的にはフリー・マーケットや露店での購入代金のやり取りや、友人との飲み代の精算までも、Google Walletで行えるようになるだろう。

Citibankをパートナーとした狙い

 こう考えると、Google Walletの協力者でもあるCitibankの位置づけが見えてくる。Citibankは世界の中で、最大級の銀行であることに加え、巨大な加盟店網を有する世界最大級のクレジットカード会社でもある。

 またCitibankは海外送金やカード決済などのために、国を超えた銀行間のお金の移動を実現する「清算システム」を持つ数少ないグローバル・バンクである。清算システムはペイメント・サービスには必要不可欠な機能でもある。グローバル展開する大手銀行でもこれを持たないところがほとんどで、国を跨ぐ小口決済や送金の清算には「SWIFT」と呼ばれる金融機関向けのネットワークや、VisaやMasterCardによる決済ネットワークである「VisaNet」や「BankNet」を利用する。

 一般に小売店がクレジットカード決済を顧客に提供する場合、その小売店と加盟契約する金融機関やクレジットカード会社がMasterCard、Visaなど決済ブランドと個別に各決済ネットワークに接続する必要がある。Googleが今後小売店向けにサービスを提供する場合にも同様な決済ネットワークへの接続が必要となるのだ。Googleはその接続をCitibankに委ねることによって、複数の国際ブランドの対応が可能となる。つまり、Citibankの決済アプリがスマートフォンに入れば、世界中のさまざまなクレジットカードやデビットカードを使ってお金のやり取りができるようになるのだ。こうした意図があるとすれば、Google社 がCitibankをパートナーと選定したのは、非常に戦略的だったといえる。