2007年ごろから、フランスのCitiziプロジェクトなど欧州で、NFC搭載携帯電話機を使ったペイメント・サービスが始まる機運が出てきたことを前回述べた。今回は、舞台を日本に戻し、携帯電話機へのNFC搭載に向けた動きを紹介する。

 2007年ごろになると、KDDIやソフトバンクモバイルなどの携帯電話事業者を中心に日本でNFC搭載携帯電話機を使ったサービスの実現可能性を検証する動きが始まった。この背景には、第1回に述べたように、KDDIやソフトバンクモバイルにとって「おサイフケータイ」の利用が期待したほど伸びないという悩みがあった。FeliCa機能は、携帯電話機に付随するさまざまな機能(ワンセグ、カメラ、赤外線通信、Bluetoothなど)の中でも、コストが高い。利用頻度が少ないのであれば単なるお荷物でしかない。

 ただし、海外ではPay-Buy-Mobileなど、NFCを携帯電話機に搭載するための仕様作りや、交通乗車券やクレジットカードなどでType A/B方式の活用が進みつつあった。さらに、携帯電話機へのNFC搭載については政府などからの要望があった。住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)では、2003年からType B方式の住民基本台帳カードを使った確定申告などのオンライン・サービスを提供しているが、利用者が伸びていなかったからだ。そこで内閣府がテコ入れ策を検討し、NFC搭載携帯電話機を簡易なリーダーとして使うことが提案された。これとは別にNTTデータや大日本印刷などがType B方式ベースのIC免許証をNFC搭載携帯電話機で読み取って個人認証に用いるような検討も始まっていた。

KDDIとソフトバンクモバイルが「おサイフ」のリセットを目論む

 そこで、KDDIやソフトバンクモバイルらは、 NFCを携帯電話機に取り込むことでその利用シーンを広げ、「おサイフケータイ」を仕立て直そうと考えた。日本でも、米Visa World Wide社や米MasterCard World Wide社といった国際決済ブランドが推し進めるType A/Bベースの非接触ICカードが使われ始める可能性が高く、国内の公共系カード(住民基本台帳カード、運転免許証、パスポート)のType Bカード化が進みつつあったことから、FeliCaに加えType A/Bをサポートすることで「おサイフケータイ」の機能を拡張し、再活性化しようという戦略である。

 中でもKDDIが実施したNFC搭載携帯電話機の検討には、Type A方式でPayPassの導入トライアルを実施していたマスターカード・ワールドワイドや、日本でPayPassカードを発行しそれに対応する決済端末を一部の加盟店に設置していたオリエントコーポレーション、nanacoを推進するセブンカードサービス(当時はアイ・ワイ・カードサービス)などが参加した。さらに、ソフトバンクモバイルも加わった形で、モバイル決済推進協議会(MOPPA、2005年結成)での検討が進められるようになった。

 その後、ソフトバンクモバイルが2009年にマスターカード、オリエントコーポレーションと共同で試験用NFC搭載携帯電話機を用いた実証実験を千葉県の商業施設で行い、KDDIも2010年に同じ場所でNFC搭載携帯電話機を用いた実証実験を行った。