微細化の先陣を切るのはIntel社や米IBM Corp.で,ファウンドリー企業はそれを追走する─。これまで不変だったこの構図が変わりそうだ。論理LSIの微細化時期について,Intel社とTSMCを比べてみよう(図8)。90/65/45~40nm世代では,いずれもIntel社が先陣を切り,TSMCが約1年遅れて量産を開始した。

図8 論理LSIの微細化で猛追するTSMC
Intel社とAMD社,TSMCについて,近年の微細加工技術の導入時期を比較した。
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 こうした関係に変化が生じるのが,32~28nm世代である。Intel社は32nm世代のマイクロプロセサの量産を2009年第4四半期に開始している。一方,TSMCは28nm世代の論理LSIの量産を2010年第2四半期から手掛ける。相変わらずIntel社が先行したものの,差を約半年に詰めることになる。しかも,Intel社の32nm世代に対して,TSMCは28nm世代と,1/2世代ほど微細化を進めている。

 続く22~20nm世代では,TSMCが量産計画の詳細を,Intel社に先んじて明らかにした。TSMCは2010年4月,22nm世代を飛ばして20nm世代の論理LSIの製造を2012年第3四半期に始める計画を打ち出した。これは単なる目標ではない。20nm世代で利用する具体的なトランジスタやプロセス,露光技術も公表している(pp.38─51の第2部「微細化はまだまだ続く,五つの指標で3社を比較」参照)注1)

注1) Intel社は,ムーアの法則に基づき,製造技術の微細化を2年置きに1世代ずつ進める方針を明らかにしている。順調に開発が進めば,2011年第4四半期には22nm世代のマイクロプロセサの量産を始めることになるだろう。ただし,現時点で22nm製品の具体的な量産計画や,その世代の量産に適用する製造技術の詳細は明らかにしていない。

 技術力におけるファウンドリー企業の台頭は,製造技術の微細化にとどまらない。例えば,ソニーが研究開発で先行していた裏面照射(BSI)型CMOSセンサ(図9)。撮像素子業界では,「他社は当分の間,追い付けない」とみる向きが多かった技術である。

図9 BSI型CMOSセンサの製造でも急速にキャッチアップ
OmniVision社はCMOSセンサの製造をTSMCに委託している。ファウンドリー企業による製造が難し いとされていたBSI型CMOSセンサ(a)についても,TSMCの技術力が急速に上がっているようだ。 OmniVision社のBSI型CMOSセンサは,感度が従来型(b)よりも50%以上優れるという。
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 しかし,実際には,TSMCに生産を委託する米OmniVision Technologies, Inc.が,ソニーに続いて量産出荷してみせた。デジタル・カメラ業界のある幹部は「BSI型CMOSセンサの量産については,TSMCがすごいと見るべきである。ソニーがIDMの強みを生かして確立したSiの加工技術と同等の技術を,量産レベルで有していることを証明したからだ。このBSI型CMOSセンサは,現時点でコンパクト機に使える水準にある。TSMCの技術力を考慮すると,遠くない将来,一眼レフ機にも使えるようになるだろう」と語る。

戦略的なパートナーに

 巨大な生産能力と同時に,最先端の技術力も手に入れつつあるファウンドリー企業。機器メーカーや半導体メーカーは,ファウンドリー企業とどう付き合っていけばよいのか。