【前回より続く】

 チャージ・ポンプがかかえる二つの問題のうち組み伏せやすかったのは,逆電流の発生である。電荷転送用MOSFETとポンプアップ・ドライバを駆動するクロック信号を分離し,電荷転送用MOSFETを確実に切ってからポンプアップ・ドライバをオンにするようにした。こうすれば原理上,逆電流は流れない。

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開発したチャージ・ポンプ回路の昇圧手順
四つのサイクルを繰り返すことで昇圧する。まず,すべての電荷転送用 MOSFETをオフにする(a)。次に,第1/3/5段のMOSFET(M1,M3,M5)のみオンにする(b)。次にすべての MOSFETを同時にオフにする(c)。そして第2/4段のMOSFETのみオンにする(d)。ここでSはレベル・シフト回 路。供給するクロックは,ポンプアップ・ドライバを駆動するCLK,CLKBと,電荷転送用MOSFETを駆動する CLK’,CLKB’の4種類がある(e)。

高耐圧型MOSFETを利用せず

 問題は高耐圧型MOSFETのインピーダンスである。名野はこの課題に,斬新な発想で切り込んだ。そもそも高耐圧型MOSFETを使わなければいいと考えたのである。

 それまで高耐圧型MOSFETの利用はチャージ・ポンプに不可欠と見なされていた。しかしそれは,微小な電流しか扱わない用途を前提にした常識なのではないか。はなから大電流を流すことを考えていた名野にとって,高耐圧型MOSFETの存在は目の上のたんこぶでしかなかった。ならば,回路を工夫して耐圧が低いMOSFETだけでチャージ・ポンプを構成する方法を考えよう。

 名野がたどり着いた解決策は,電荷転送用MOSFETの基板の電位をソースやドレインと同電位にする方法だった。通常のチャージ・ポンプでは,電荷転送用MOSFETの基板は接地された状態にある。この結果,出力側のMOSFETでは基板とゲート,ソース,ドレインの間の電位差が大きくなり,高耐圧にする必要があった。