チャージ・ポンプがかかえる二つの問題のうち組み伏せやすかったのは,逆電流の発生である。電荷転送用MOSFETとポンプアップ・ドライバを駆動するクロック信号を分離し,電荷転送用MOSFETを確実に切ってからポンプアップ・ドライバをオンにするようにした。こうすれば原理上,逆電流は流れない。
高耐圧型MOSFETを利用せず
問題は高耐圧型MOSFETのインピーダンスである。名野はこの課題に,斬新な発想で切り込んだ。そもそも高耐圧型MOSFETを使わなければいいと考えたのである。
それまで高耐圧型MOSFETの利用はチャージ・ポンプに不可欠と見なされていた。しかしそれは,微小な電流しか扱わない用途を前提にした常識なのではないか。はなから大電流を流すことを考えていた名野にとって,高耐圧型MOSFETの存在は目の上のたんこぶでしかなかった。ならば,回路を工夫して耐圧が低いMOSFETだけでチャージ・ポンプを構成する方法を考えよう。
名野がたどり着いた解決策は,電荷転送用MOSFETの基板の電位をソースやドレインと同電位にする方法だった。通常のチャージ・ポンプでは,電荷転送用MOSFETの基板は接地された状態にある。この結果,出力側のMOSFETでは基板とゲート,ソース,ドレインの間の電位差が大きくなり,高耐圧にする必要があった。