昨年春,名野隆夫は三洋半導体を定年退職した。名野はさまざまな顔を持っていた。社内ではちょっとした有名人だった。「アナログ大学院」と呼ばれる研修制度を主催し,100人を超えるアナログ技術者を育成した。売却交渉中の同社に投資ファンドが食指を動かすのは,電源ICやオーディオICなどアナログ系半導体の設計力に定評があるからだ。その実力を陰で支えてきた一人が名野である。
連載
無名の偉人伝 あるベテラン技術者の告白
(写真:栗原 克己)
目次
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最終回:「何があっても勉強を忘れるな」(下)
新潟県中越地方を襲った地震を契機として,三洋電機の業績は急速に悪化する。2004年度の純損益は,前年度の134億円の黒字から,1371億円の赤字に転落した。
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第7回:「何があっても勉強を忘れるな」(上)
「名野さん,すぐに来てください! あのデータは本当だったんですね」
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第6回:「どうして動いたの」(下)
チャージ・ポンプがかかえる二つの問題のうち組み伏せやすかったのは,逆電流の発生である。電荷転送用MOSFETとポンプアップ・ドライバを駆動するクロック信号を分離し,電荷転送用MOSFETを確実に切ってからポンプアップ・ドライバをオンにするようにした。こうすれば原理上,逆電流は流れない。
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第5回:「どうして動いたの」(上)
「がたん,がたん」道路の継ぎ目をタイヤが乗り越えるたび,車体が小刻みに揺れる。ハンドル,そしてシートから心地よい振動が体に伝わってくる。
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第4回:「あなたは常識を知らない」(下)
「大電流で高効率のチャージ・ポンプICは不可能といわれているけど,三洋さんならできるでしょ」
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第3回:「あなたは常識を知らない」(上)
「この電流値を変えると,出力電圧はどう変わる?」
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第2回:「君の敵は,ジェラシーだ」(下)
「三洋さん,シミュレーションの精度がこんなに悪くては,困りますよ」
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第1回:「君の敵は,ジェラシーだ」(上)
昨年春,名野隆夫は三洋半導体を定年退職した。名野はさまざまな顔を持っていた。社内ではちょっとした有名人だった。「アナログ大学院」と呼ばれる研修制度を主催し,100人を超えるアナログ技術者を育成した。売却交渉中の同社に投資ファンドが食指を動かすのは,電源ICやオーディオICなどアナログ系半導体の設計力…