torneの希望小売価格は9980円。PS3のユーザーであれば,この値段でHDDレコーダーを入手できることになる。一般的なレコーダーと比較して機能面で制約があるものの,数万円はするレコーダーより買得感は確かに高い。

torneは主に,USBでPS3と接続する小型の地デジ・チューナーと, PS3で動作する視聴・録画ソフトウエアで構成される。
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 それ以上にユーザーを引き付けたのが,ゲーム機メーカーならではの快適で楽しい操作を実現するGUIだ。例えば,番組表の拡大/縮小や,選択カーソルの縦横への操作を,HDDレコーダーよりも素早く実行できる。さらに,アニメーションを多用した画面の演出やBGMの採用といったゲーム由来の要素を盛り込み,操作自体に「楽しさ」をもたらした。

 このヒット作は,いかに誕生したのか。きっかけは,発売の約2年前。SCE社内で開かれた,あるアイデア会議だった。

外付けチューナー解禁

「地デジを視聴・録画するだけのシンプルな構成がいいんじゃないか」

「いやいや,24時間全部録り,ってのもありだと思う」

石塚健作氏

 2008年4月末。SCE社内で開かれたアイデア会議で,技術者たちがさまざまな意見を出し合う。議題は,「PS3向け地デジ・チューナーを使って何ができるか」。

 7~8人の参加者の中に,torne開発の中心人物の一人である石塚健作(現・SCE ソフトウェアプラットフォーム開発部 2課 1グループ)がいた。石塚が会議に呼ばれたのは,会議を招集した当時のCTOの茶谷公之と顔見知りということがあった。それ以上に,石塚がPS3向けBlu-ray Disc(BD)再生ソフトウエアの開発を手掛けるなど,地デジ放送で用いるMPEG-2 TSデータを扱った経験があることがその理由だった。

 地デジ・チューナーがPS3用周辺機器の開発案件に挙がるのは,意外なことではなかった。むしろ自然といえた。具体的な企画がなかったとはいえ,PS3の開発当初から「テレビをエンターテインメント化する」という発想は,これまで何度か話題に上っていたからだ。ユーザーからも「テレビに接続する機器で,しかもHDDを積んでいるのになぜテレビの録画機能がないのか」という声が上がっていた。

 2006年11月のPS3発売から約1年半が経過して,ようやく具体的な案件として議題に持ち上がったのは,実現を阻む障害が取り除かれたからだ。このころ,国内放送業界はパソコンに外付けする地上/BS/CSデジタル・チューナーの単体発売を解禁すると決めたのである。

フルセグかワンセグか