●所在地:東京都羽村市 ●敷地面積:75万1000m2 ●従業員数:4650人
●主要生産品目:FJクルーザー,ランドクルーザー プラド,ダイナ,トヨエース,クイックデリバリー,日野デュトロ

 「ランドクルーザー」や小型トラックなどを製造する日野自動車羽村工場は2009年2月,エネルギ管理において優れた活動を推進する「エネルギー管理優良工場」の経済産業大臣表彰を省エネルギーセンターから受賞した。生産設備ごとの電力使用量を見える化し,未使用時は細かに電源を切ることで待機電力を57%削減。こうした地道な省エネ活動を多面的に展開してきたことが評価されたのだ。実は,同工場は電気以外の分野でも,きめ細かな見える化に取り組み,高い効果を上げている。「蒸気の省エネ」だ。

 一般に蒸気の省エネは,推進するのが難しいといわれる。電気に比べ,見える化が困難だからだ。

 電気の場合,配電盤などに電力計を取り付ければ,どの設備でどのくらいの電気を消費しているかが,おおよそ分かる。しかし,蒸気は違う。流量計で蒸気の流量を把握しても,そのすべてが生産や空調といった「仕事」に使われているとは限らない。仕事をするのは,蒸気そのものではなく蒸気が持つ熱量。そして,その熱量は,仕事をせずに,ただ配管や排水などから「ロス」として放出されることが間々ある。

 同工場は2003年,この難しいとされる蒸気の省エネに取り組むことを決めた。塗装工程などで多用し,使用エネルギのうち約21%を占める蒸気を,無視できなかったのだ。当時,重油価格が1999年比で約2倍に高騰していたことも後押しした。

 数年間の活動の末,同工場は蒸気だけで年間1億円以上のコスト削減効果を上げることに成功した*1。別の省エネ活動も含めると,二酸化炭素(CO2)排出量は2007年までに,既に1990年比32.9%減を達成している*2

 蒸気の省エネにおける成功のポイントは,二つある。第一に,見える化するときは必ず科学的分析に基づいて実施すること。第二に,改善した場合の効果を金額に換算し,誰にでも分かりやすく明示することだ。これらがなぜ成功のカギを握るのか,同工場が実践した手順とともに見ていこう。

*1 2007年時の原油コストで算出したもの。
*2 1990年に11万5000tだったCO2排出量を2007年に7万7300tに削減した。2008年は5万5200tだったが,「生産数の減少も影響している」(大竹氏)。

小まめな遮断が固定費圧縮

 蒸気の省エネ活動は,羽村工場の工務部施設管理課が中心となり,推進した。蒸気を見える化するために最初に実施したのが,重要なポイントに流量計を設置することだ。まずは塗装工程の多い第10工場から手掛けた。

 第10工場では,配管の入り口と出口に一つずつと,蒸気を多く使用する設備につながる配管に計21個の流量計を取り付けた(図1)。流量計の設置だけではロスの実態は把握できないが,蒸気の出入りが見えるようになったことで,それまで見落としてきたムダの存在が明らかになった。

図1●羽村工場の第10工場に設置した流量計
特に蒸気の使用量の多い設備を中心として,21カ所に流量計を取り付けた。左の写真は入り口に取り付けた流量計。設置した後,「エネルギー中央管理センター」にデータを送信し,同センターで流量を監視できるようにした。右はその監視画面。
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 例えば,夏季であっても蒸気が送られている暖房設備があったことや,稼働していない間も蒸気が送られている生産設備があったことなどである。前者は,夏季前のバルブ閉めを徹底することで対応。後者は,必要個所にバルブを新設し,小まめに開閉する策を講じた。その結果,これら二つの改善だけでも年間約220万円のコスト削減効果を上げることができた。

 この考え方は,待機電力の省エネで実施したものと基本的には同じだ。設備ごとにエネルギの流れを把握し,必要のないときは小まめに遮断する。こうすることで,エネルギ固定費を最小限に抑えられるわけだ。「リーマンショック以後,激しい生産変動に苦しんできた自動車業界にとって,固定費削減の意味は非常に大きい」(日野自動車執行役員の田中一春氏)。

 羽村工場では2005年,こうして見える化した電気や蒸気の流れをリアルタイムで監視できる「エネルギー中央管理センター」を設置している(図2)。不使用時にもエネルギが供給されているなどの異常が発生したときは,アラームで警告。パソコン上で,バルブの開閉などを遠隔操作できる仕組みだ。

図2●エネルギー中央管理センターとボイラ監視画面
エネルギー中央管理センター(左)で蒸気を遠隔調整できるように,バルブ開閉などを自動化した。監視画面(右)の作成もバルブ開閉の自動化も,施設管理課が行った。
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 実は,蒸気の省エネで本領を発揮するのは,このさらに先の取り組みだ。流量計では見えなかった「ロス」を見える化し,シラミつぶしに攻めていくのだ。そのためには,どこで,どのようなロスがあるかを詳細に知る必要がある。

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