「欧州では今,太陽電池の模倣品が毎日のように見つかっている」。ドイツの第三者認証機関であるTüV Rheinland社は,こう語る。「25年保証の太陽電池を買ったのに,1年で壊れてしまったというユーザーが我々に調査を依頼してくる。その結果,本物ではないことが判明する」(テュフ ラインランド ジャパン ビジネス デベロップメント/営業部 部長のTatiana Tarasova氏)。

 同氏によると,中国で作られた粗悪品の太陽電池モジュールに有名メーカーのラベルを張り付ける手口や,米国仕様の製品を欧州仕様と偽って高く販売する事例が増えている。また,「大規模な太陽光発電施設(メガソーラー)では,設置した太陽電池の約4%が盗まれており,模倣品業者が再販している可能性がある」(同氏)という。

 2009年7月,シャープの欧州法人は,同社の太陽電池モジュールの模倣品が発見されたことを受けて,模倣品の見分け方を顧客向けに告知した(図1)。それによると,模倣されたのはシャープの単結晶Si型太陽電池モジュール「NU-SOE3E」で,模倣品は梱包箱に印字された文字のつづりが間違っているほか,モジュールの封止部にも異常が見られる。真正品ではゴム製の封止材を使っているのに対し,模倣品は封止部にシリコーン樹脂のような物質を塗っているという。

図1 太陽電池でも模倣品が見つかる
図1 太陽電池でも模倣品が見つかる
シャープの欧州法人は,模倣太陽電池に対する注意を呼び掛けている(a)。2009年に製造された単結晶Si型の太陽電池モジュール「NU-SOE3E」で,模倣品が見つかっている(b)。

 こうした太陽電池の模倣品は,ここ数年の需要の急拡大を突いて出てきた最新事例の一つ。半導体や電子部品では,模倣品はもはや珍しくない。

 例えば,米商務省 産業安全保障局(BIS)が2010年1月に発表した250ページにも及ぶ調査報告書「Defense Industrial Base Assessment:Counterfeit Electronics」は,兵器など軍用の半導体・電子部品での模倣品被害の深刻さを克明に描いている。この調査は,米国防総省に納める半導体や電子部品,回路基板を扱う387社のメーカー/流通業者を対象に実施した。その結果,2005~2008年の4年間に模倣品に遭遇したことのある企業は,387社のうち39%にも達した。また,模倣品を実際に発見した件数は2008年に9356件と2005年比で2.4倍に増加した。

 模倣品対策を進める業界団体である米Anti-Gray Market Alliance(AGMA)によると,「半導体の模倣品市場は,世界の半導体市場の5%にまで達するとの報告もある」(AGMA, Treasurer, Public Relations/Media Committee, ChairのPeter Hlavnicka氏)。2010年の半導体市場規模は約2500億米ドルなので,模倣品市場は125億米ドル規模ということになる。

 ただし,模倣品被害の全体像の把握は困難だ。「模倣品問題が闇から闇に葬られる性質を持っているため」(模倣品問題に詳しい,東京理科大学専門職大学院 知的財産戦略専攻 教授の馬場錬成氏)である。企業にとってはブランド・イメージの低下につながる恐れがあるため,ほとんどの場合は公にされない。

 今回,本誌が半導体や電子部品にかかわる複数の企業や業界団体に取材した結果,「模倣部品による被害は深刻化している」との回答が圧倒的に多かった。例えば,模倣電子部品の流通経路を調査している米ERAI, Inc.は「中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した2000年以降,模倣品の被害が急激に増えた」(同社Vice PresidentのKristal Snider氏)と指摘する。模倣品製造の中心地とされる中国の流通が世界に開放されたことが,その大きな要因という見方だ。