IT業界で見られるようなオープン化で、デファクトスタンダードを狙う動きが電気自動車(EV)の世界でも始まった。
新設計したEVの設計図を公開し、標準プラットフォームを世界に広めようとするベンチャーが登場したためだ。
新規参入メーカーでも、低コスト・短期間でEVを商品化できる。
今のところ、大手自動車メーカーは、こうしたオープン化の動きに模様眺めの構えだ。
しかし、今後標準プラットフォームの普及が進むと、大手メーカーは方向転換を迫られる可能性がある。

図1 シムドライブで先行開発しているEV(電気自動車)のデザイン案
5人乗りの小型車。電池容量は24kWhで航続距離は300km。大量生産時の車両価格は150万円以下(電池を除く)を目指す。
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 多くの企業が知恵を出し合い、一つの標準プラットフォームの改良を進め、その成果は誰でも利用できる─。こんなIT業界の「オープンソースソフトウエア」の開発に近い考え方をEV(電気自動車)の世界に導入しようとしているのがPart1で紹介したシムドライブだ。

 同社の挑戦が目論見通り進めば、台湾の巨大EMS(電子製品の製造受託サービス)企業が、大手自動車メーカーを上回る生産規模で、標準プラットフォームのクルマを生産することも、あながち夢物語とはいえなくなる。

 シムドライブは、EVの開発支援ベンチャー。社長は、過去30年間に8台のEVを開発してきた慶應義塾大学教授の清水浩氏が務める。開発するEVは清水氏が長年開発を進めてきた、インホイールモータと中空のフレーム構造を持つ標準プラットフォームを採用する。

先行開発と量産支援を実施

 2010年1月に開発を始めた先行開発第1号は、5人乗りの小型車で、容量24 kWhのLiイオン2次電池を搭載し、航続距離300kmを目指す(図1)。 

 先行開発第1号に参加するのは、全34社・団体(表)。自動車メーカーとして三菱自動車といすゞ自動車が参加した。このほか、商社、電機メーカー、電池メーカーなどもメンバーに名を連ねる。2010年末までに車両の開発を終了し、2013年には10万台の量産を目指す。

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表 シムドライブの先行開発第1号の参加企業・団体
自動車メーカーから電池メーカー、自治体まで、34社・団体が参加した。

 シムドライブは、2010年1月に開始した第1号の開発プロジェクトに続き、年内に第2号、2011年初めに第3号をスタートさせることを計画している(図2)。

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図2 開発・実用化スケジュール
先行開発に1年、その量産車の開発支援に2年間を割り当てる。先行開発の第1号車は、2013年の量産を見込む。
図3 先行開発フェーズ(1年間)
自動車メーカーや部品メーカー、電池メーカーなどが、2000万円を支払って先行開発に参加する。開発車両の仕様や開発 方針について自由に意見を言えるが、最後はプロジェクトリーダーである社長の清水氏が決める。開発した車両の設計図などは持ち帰ることができる。
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 プロジェクトへの参加費用は1社2000万円(図3)。先行開発費は通常数億円かかるが、このプロジェクトでは参加企業約30社で負担するため1社当たりの負担を少なくできる。

 共同開発に参加する企業は、自社の部品を標準部品として提案でき、プロジェクトリーダーの清水氏が採用するかどうかを判断する。部品が先行開発車両に組み込まれれば、最終的に公開されるEVの設計図に記載されるため、部品メーカーの開発意欲は高い。

図4 量産車の開発支援フェーズ(2年間)
先行開発した車両は、権利金を支払えば量産できる。ユーザー企業が負担する権利金は、インホイールモータが1億円、プラットフォームが2億円、車両全体が3億円。このほか、売上高に応じた手数料をシムドライブに支払う。
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 同社は、標準プラットフォームをベースにアッパーボディまで設計する。先行開発の期間は1年で、開発プロジェクトの参加企業は、開発を終えた車両の設計 図を入手でき、量産することも可能。先行開発に参加していない企業でも2000万円を払えば、設計図を入手することができる。数億円の開発コストと先行開 発の1年間をかけずに設計図が手に入ることをメリットに感じる企業もあるかもしれない。

 シムドライブは、先行開発が終わると、そのクルマの量産を希望するメーカーを支援する(図4)。量産を希望するメーカーは、量産する部位に応じた権利金 をシムドライブに支払う。例えば、インホイールモータなら1億円+売上高手数料3%、プラットフォームが2億円+同2%、車両全体だと3億円+同1%という具合だ。