2008年1月,「International CES」の会場で聴衆をあっと驚かせる発表があった。松下電器産業が米Google Inc.と提携し,「YouTube」の映像を直接表示できるテレビを公開したのだ。しかもこのテレビ,ハードウエアは従来機とほとんど同じ。ソフトウエアの追加だけで新機能を実現している。YouTubeテレビに限らず,レコーダーや携帯電話機にも,ユーザーをうならせる新製品が続々と登場している。それらの心臓部はいずれも,松下電器が開発した「UniPhier(ユニフィエ)」と呼ぶ基盤技術(プラットフォーム)を利用している。

 UniPhierは,デジタル民生向けSoC(system on a chip),ソフトウエア,開発環境などから成る。それまで品種ごとにバラバラだったSoCのアーキテクチャを統一し,部門を超えてソフトウエアや開発ノウハウを共有できるようにした点が特徴だ。これによって,開発効率は「従来の約5倍に改善した」と松下電器は胸を張る。

松下電器産業 戦略半導体開発センター 所長の藤川悟氏。

 2008年3月の時点でUniPhierを使った同社の製品は28シリーズ,104品目に及ぶ。薄型テレビやレコーダー,携帯電話機のほか,ビデオ・カメラやオーディオ機器にもUniPhierを利用している。まだ道半ばとはいえ,同社のデジタル民生向けプラットフォームはUniPhierにほぼ一本化されつつある状況といえる。

 統合プラットフォームの導入を試みる企業は多いが,一般には成功例は少ない。開発効率の向上といった利点が見えていても,開発現場から導入を反対する声が必ず上がるためだ。統合プラットフォームを導入しようとすると,一時的な開発効率の低下が避けられない。ギリギリのスケジュールの中で商品を開発し,市場に投入し続けている現場には,それに耐えられる余力がない。実際,多くの電機メーカーが統合プラットフォームの導入を計画しながら実現に至らなかったのは,このためである。では,なぜ松下電器のUniPhierはうまくいったのか。

行き場を失った技術者たち

 UniPhierの源流をたどっていくと,今から15年前の1993年に行き当たる。この年,松下電器はワークステーション向けの技術開発を中止する。行き場を失った技術者たちは,別の機器部門や半導体部門に散らばっていった。実はこの時の技術者たちが,後のUniPhier構想の中で重要な役割を果たしていく。

 後にUniPhierのプロジェクトを推進することになる藤川悟(現・戦略半導体開発センター 所長)もその一人である。コンピュータ技術を民生分野に展開する上で,彼らの存在は欠かせないものだった。