図●市販のNd-Fe-B系焼結磁石の最大エネルギ積と保磁力の関係。物質・材料研究機構の宝野氏の資料を基に日経ものづくりが作成。
図●市販のNd-Fe-B系焼結磁石の最大エネルギ積と保磁力の関係。物質・材料研究機構の宝野氏の資料を基に日経ものづくりが作成。
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 小型で軽量な高性能モータとして幅広い用途で使われているのが、永久磁石型の同期モータ(PMモータ)である。ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)の走行モータをはじめ、電動パワーステアリングの駆動モータ、省エネルギ型のエアコン用圧縮機のモータ、ドラムを斜めに配置した洗濯機のドラム駆動用モータ、工作機械の位置決め/割り出しやロボットに使う産業用モータなどさまざまなところで活用されている(図)。

 ただ、こうした用途向けに高い性能を実現するには、現状では高性能磁石であるネオジム・鉄・ボロン(Nd-Fe-B)系焼結磁石が不可欠。例えば、HEVでは約1kg/台、EVでは約2kg/台のNd-Fe-B系焼結磁石が使われている。その磁石原料としてのNdに加え、高い耐熱性を求められる用途向けにはジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)といったレアアースが必要とされる。Dy(または一部をTbに置換)は、HEV/EV用の走行モータの場合でNd-Fe-B系焼結磁石の総質量の7~10質量%、エアコン用圧縮機のモータの場合で4~5質量%添加されている。

 特にDyとTbは、重希土と呼ばれるレアアースの中でもとりわけ希少な資源。物質・材料研究機構磁性材料センター長の宝野和博氏によれば「Dyの地殻存在度は諸説あるが、ざっくり言えば、Ndの10~20%。Tbはもっと少ない」(Tbは同2~4%)。しかも、現状では供給元がほぼ中国に限られる上、中国から日本が1年間に輸入できる量は中国政府によって決められている。このため、HEV/EVや省エネ家電の増加などでさらにPMモータの需要が伸びてくると、安定確保が難しくなる恐れがある。Nd-Fe-B系焼結磁石では、Nd、Dy、Tbが合計で同磁石の約30質量%を占める。高耐熱タイプでは、Ndが約20質量%で、Dyが約10質量%。資源の存在度を考えると、今後、DyやTbの方がNdよりも調達が厳しくなると懸念される。そこで、求められているのが、DyやTbの使用量の低減だ。