COLLEGE 製造業の“本当”を探求
 

第6回:逆転の発想

中山 力=日経ものづくり
2011/06/09 00:00
出典:日経ものづくり、2007年4月号 、pp.261~265 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
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【前回のあらすじ】2003年9月,ついに8速自動変速機(AT)の開発プロジェクトが具体的に動きだした。事前に実現の可能性を検討したとはいえ,量産を考慮した上での設計を進めていく中でさまざまな課題を克服しなければならなかった。その一つが軽量化である。初期段階の試算では,8ATの質量は110kgと目標値を大きく上回っていたからだ。トヨタ自動車とアイシン・エィ・ダブリュの開発陣は,アルミダイカスト製ミッションケースの一体化など一つひとつの部品について軽量化対策を施し,その結果95.4kgという質量を実現した。あと残す課題は,シフトチェンジの制御方法である。

田中 雅晴 トヨタ自動車 パワートレーン本部第2 ドライブト
田中 雅晴 トヨタ自動車 パワートレーン本部第2 ドライブト レーン技術部第1AT 技術室グループ長
写真:栗原克己

 トヨタ自動車の田中雅晴。未来のトランスミッションを考える先行開発部隊に属し,変速制御のスムーズ化を研究するトランスミッションのエキスパートが異動の内示を受けたのは,紅葉の散った2004年初冬のことだった。

「年が明けたら,LSの開発チームで8ATの実現に向け力を貸してほしい」

 世界初の8AT。そこには既に,アクセル開度と車速からドライバーが期待する駆動力を計算し,その値に基づいて最適なギア段とスロットル開度を決定する「駆動力統合制御システム(DRAMS)」などの搭載が決まっている。そのDRAMSを8AT向けに最適化したりスムーズな変速制御を実現したりするために,田中の力が必要とされたのだ。

 残りわずかとなった今の職場。やりかけの仕事や周囲への引き継ぎなどに追われながらも,田中は次の職場での仕事,すなわち8ATのことを考え始めていた。8ATもDRAMSも,素材としては一級品。それを生かすも殺すも,「料理人」の腕次第だ。そういえば,あれはどうなっているのだろう。8ATに載せるという話は聞いている。あれを使えるか使えないかで,料理の味付けが随分と変わってくるのだが…。

[画像のクリックで拡大表示]

 ある時,田中はLSの8ATの開発部隊を率いる本多敦に聞いてみた。

「ええ,その件は確かに検討していますが,ちょっと難航してまして…」

「でも,LSに載せること自体は決まっているんですよね」

「それが,まだどちらとも…。もちろん個人的には,8ATには何としてでも載せたいと思っていますが」

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