2010年7月13日,ついにGOPANの発表会の日がやって来た。発表会の当日,プロジェクト・チームでプロモーションを担当していた古長亮二(現・三洋電機 マーケティング本部 事業企画部 マーケティング二課 課長)は,「人生で一番長い朝の時間」を感じていた。

 発表会には農林水産省の幹部に出席をお願いしていた。だが,国会などの緊急な用件が発生した場合は,欠席も十分あり得るのだ。そのため,発表会場への到着を今か今かと待ちわびていたのである。発表会では,三洋電機 代表取締役社長の佐野精一郎の挨拶に引き続き,農水省の政務官の挨拶も無事に終えることができた。

 農水省との交流を始め,発表会には自治体などの関係者を招待し,GOPANによる国産米の消費拡大と,それに伴う食料自給率の上昇,そして,地産地消の推進といった社会的価値の創出に努めたことは,その後,花開く。例えば,農水省や新潟市の協力を得て,新潟市で開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力)の食料安全保障担当大臣会合にGOPANを展示する機会を得たのだ。その際,ほぼすべての参加国の要人に米から作ったパンを食べてもらうことができた。さらに,自治体や農業協同組合(JA)からもぜひGOPANを活用したいとの連絡が相次いだ。

 世間の反応も三洋電機の予想を上回っていた。販売店から取り扱いの要望が急増し,当初予定していた数量よりも2倍の商品を発売日に確保する必要が出てきたのだ。このままでは,当初の発売予定日の10月8日には到底間に合わない。販売店や購入希望者に多大な迷惑を掛けると判断した三洋電機は,GOPANの発売日を約1カ月先の11月11日に延期することを決める。

 それでもGOPANに対する世間の関心は日に日に増していく。7月13日以降,「お客さまセンター」への問い合わせは2カ月で800件を超えるほどになった。商品の認知度も,11月初めには20~50歳代の女性では7割近くに達し,発売前から極めて話題性が高い商品となっていた。

 10月1日に予約を開始すると,瞬く間に受注台数が増えていく。11月11日の発売後も予約は増え続け,ついに11月25日には「2011年3月までの販売計画である5万8000台を超える受注があり,12月1日以降は予約注文の受け付けを一時見合わせる」と発表する事態に追い込まれる。それに伴い,数多く準備してきたプロモーションやイベントを控えることとなった。

2ライン化を決定

三洋電機コンシューマエレクトロニクス 家電事業 部 製造統括部 技術二部 調理器技術課 課長の福 田修二氏

 「どうしたらいいんだ」─。中国での生産を担当していた曽根は,頭を抱える。当初,発売時点で数千台を準備し,月間1万台の生産を計画してきた。だが,商談が進むにつれ,受注数は徐々に膨れ上がった。1カ月の発売延期をしたのにもかかわらず,発売後もさらに予想を上回り,2010年11月末には2010 年度の計画だった5万8000台を超えてしまった。

 とにかく予約をしてくれている人たちに商品を届けるには,1台でも多く製造するしかない。三洋電機は,GOPANの生産体制を現状の2倍となる月間2万台に増強するための準備に取り掛かる。中国のEMSは部品の生産などの前工程に特化させ,その生産ラインを1本から2本に増やし,最終工程の組み立ては日本に移管することにしたのだ。