Web標準技術の浸透は,テレビ関連のビジネスモデルにも変革を促す。例えば,検索結果やコンテンツの内容に関連した広告は,Google社の大きな収 益源である。検索結果の動画に関連した広告の表示や,検索によって売れた映像コンテンツの収益をコンテンツ提供者と分け合うようなビジネスモデルの確立 が,今後の同社の狙いであることは間違いない。

 Google社はいまだに内容を明らかにしていないが,メーカー側もGoogle TVがもたらす収益の分け前にあずかることに大きな期待を寄せる。

 パソコン事業出身で,現在はテレビ事業を率いるソニーの業務執行役員SVP ホームエンタテインメント事業本部本部長の石田佳久氏は,「まだ話し合っていないが,Google社はパソコン分野と同様のビジネスを始めるだろう。その 収益をシェアすることには期待している」と話す。

 ネット・テレビ向けのVODサービスを手掛ける米国企業は,サービスへの接続機能を標準搭載するテレビ・メーカーに収益の一部を支払っているもようだ。こうした動きが広がれば,脱売り切りを目指すテレビ・メーカーの新たな収益源に育つ可能性がある。

 もちろん,従来のビジネスモデルを根底から変えようとするGoogle TVの提案には,従来型の映像サービス企業から強い反発がある。米3大ネットワークのABCやNBC,CBSは,自社のWebサイトで配信するテレビ番組 をGoogle TV対応機器で視聴できないようにした注3)

注3)米3大ネットワークの中には,NBCのように傘下のニュース専門放送局をGoogle TVのサービスに参加させている例もある。このため,「3大ネットワークはCATVと同様の配信料を引き出すために,配信停止を駆け引きの道具に使っている」という見方も強い。

 一方で,衛星放送大手の米DISH Network LLCのように,Google TV搭載機器との連携機能を載せたSTBを発売した事業者もある。同社でマーケティング担当のVice Presidentを務めるVivik Khemka氏は「我々には,ユーザーが好むネット動画などの視聴をやめさせることはできない。ならば,出遅れてビジネスに悪影響が出る前に自ら先に進ん だ方がいい」と,Google TVへの積極参加の理由を打ち明ける。

ソフトとハードの部品がそろう

 既存のチャンネルの概念を崩す動きは,テレビの開発をソフトウエアとハードウエアの両面から大きく変える。ネット動画と放送コンテンツの融合を後押しするWeb関連の標準技術やハードウエアなどの“部品”は,今後2年ほどで一斉にそろう(図5)。

図5 普及に向けて部品がそろう
ネット・テレビの普及を後押しする“部品”が,そろいつつある。特にサービス側では,放送局によるテレビ番組の見逃し視聴サービスやネット動画の配信基盤が広がり,テレビ向けWebサービス関連の規格策定が本格化する。
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 インターネット関連の標準技術を策定するWorld Wide Web Consortium(W3C)は2010年秋に,HTMLの次世代標準「HTML5」で「Web on TV」と呼ぶテレビ向け仕様の策定に着手した。2011年春にもWG(working group)を設置し,HTML5でインターネットと放送の連携を実現する仕様などの具体的な議論に入る。

 この仕様策定をW3Cで提案した慶応義塾大学 教授の一色正男氏は「HTML5は単なる記述言語ではなく,Webアプリケーションの実行環境になる。これが載れば,テレビの概念ががらりと変わる」と話 す。HTML5では,従来のブラウザーよりも操作性を高めた緻密な画面表示が可能になるほか,OSやWebブラウザーの違いを気にせず応用ソフトウエアを 作れる。