例えば,資産管理のために,会議室のテーブルに非接触ICタグが貼られているとしよう。このタグのIDと,社内の情報システムの会議室予約サイトをあらかじめアプリ側で関連付けておけば,「会議室のテーブルのタグに携帯電話機をタッチさせるだけで,次の予約状況が分かる」(アプリケーション開発者の井上恭輔氏)。これは,当初は資産管理のために貼られたタグが,別の用途で威力を発揮する例である。

スマートフォンが決済端末に

 その後,時間を置いて起きるのが携帯電話機の決済端末化である。携帯電話機にNFCのリーダー/ライター機能が組み込まれることで,携帯電話機を決済端末(POS端末)として使う用途が広がる。この機能の搭載によって,非接触ICカードに対応するクレジットカードを読み取れるようになる他,電子マネー・カードと通信して,格納する金銭の増額や減額が可能になる。ただし,こうした機能の実現には比較的高度なセキュリティーが求められるため,広範な普及までには時間がかかりそうだ。

 この仕組みを使えば,レストランの従業員や宅配便の配達員,商店の店員などが,手のひらの携帯電話機で決済処理を行うことができる。さらに利用者が携帯電話機を使ってEdyやSuicaなどの電子マネーにチャージしたり,逆にこうした電子マネー・カードでネット・ショップの決済をしたりできる。

 NFCを搭載した携帯電話機自体が非接触ICカード代わりにもなるため,友人の携帯電話機と自分の端末を重ねて,お金のやりとりをするといったことも可能になる。そうなれば,財布を持ち歩かないで済む時代が到来する。

他の家電にもNFC化の波

 こうして携帯電話機やスマートフォンでNFC搭載が一般化していけば,タブレット端末,据置型AV機器や健康機器,白物家電など他の家電機器にもNFC が採用される可能性が高まる。機器メーカーは,携帯電話機にNFCが搭載されていることを前提として,各種家電機器の商品企画を進められるからだ。

図7 NFCを使った家電連携の姿
NFCで無線LANの暗号鍵を交換して無線LANの通信を開始する「ハンドオーバー」や,NFCを使ってデータを機器から機器へ移す「データ移動」,液晶画面などのユーザー・インタフェースが限られる家電の設定操作を,スマートフォン側で実現する「UI拡張」などの使い方がある。
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 家電機器でのNFCの使い道は,大きく三つありそうだ(前ページの図7)。一つは,NFC対応の携帯電話機と,それ以外の家電とのデータ交換である。 NFCの伝送速度は最大でも848kビット/秒と遅く,小さなデータの交換に向く。例えば携帯電話機と,体重計や体温計などの健康機器間のデータ交換や,カーナビとの位置情報のやりとりなどに利用できる。

 実際,健康機器ではタニタやオムロン ヘルスケアなどが,FeliCaで計測データを転送できる製品を2010年から発売している。「健康機器の場合は非同期の通信で済むため,非接触ICカード技術は向いている。利用するモジュール部品も,Bluetoothや無線LAN用に比べて格段に安い」(オムロン ヘルスケア新規事業開発センター ネットヘルスケア事業開発部 システム開発グループ主査の久保誠雄氏)というのがその理由だ。