図1 スマートフォンが続々とNFC通信機能を搭載
2011年後半には,数多くのスマートフォンがNFC搭載を始めると推測される。(図:半導体メーカーなどの資料を基に本誌が作成)
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 米Google Inc.,米Apple, Inc.,そしてカナダResearch In Motion Ltd(RIM社)─。スマートフォン業界の雄たちが,近距離無線通信技術「NFC」(near field communication)の採用に向けて,アクセルを踏んでいる(図1)。

 口火を切ったのはGoogle社だ。2010年12月に,携帯機器向けソフトウエア・プラットフォームの新版「Android 2.3」を,NFCに対応させることを明らかにした。さらに,同社ブランドのスマートフォン「Nexus S」(韓国Samsung Electronics Co., Ltd.が製造)に,NFC機能を組み込んだ。Google社が狙うのは,Android対応端末へのNFC機能の標準搭載である。

 Apple社も2011年夏に発売予定の次期「iPhone」に,NFC機能を組み込むもようだ。同社は2010年に,米国でNFC関連特許を大量に出願するなど,同技術に対して並々ならぬ関心を寄せている。

 北米市場で絶大な人気を誇るスマートフォン「BlackBerry」を手掛けるRIM社も,NFC採用に積極的だ。2011年に出荷を始めるBlackBerryシリーズの複数機種で,NFCに対応することを明らかにしている。

広告事業拡大を狙うGoogle

 Google社やApple社がスマートフォンへのNFC機能の組み込みに積極的なのは,この領域に大きなビジネスチャンスを感じているからに他ならない。

 Google社がNFCに期待するのは,広告事業の拡大である。NFC機能がスマートフォンに入ると,ユーザーはその端末を使ってさまざまな用途に使うようになる。非接触ICカード技術の特性を生かし,街角のポスターや駅中の広告など,あらゆるものにスマートフォンを「タッチ」し始めるだろう。こうしたユーザーの行動履歴は,スマートフォン経由でGoogle社のサーバーに逐一報告される。そして,その履歴を収集・解析すれば,そのユーザーに適した広告を直接配信できるようになる。現実世界のユーザーの行動履歴に沿った広告手法の実現を目指してきたGoogle社にとって,スマートフォンのNFC機能は,是が非でも利用したい技術なのだ。

 一方Apple社は,iPhoneの付加価値向上に加え,コンサート・チケットやギフトカードなどの販売手数料の獲得を狙っている。同社は現在,「iTunes」の仕組みを使い,楽曲や動画コンテンツ,アプリケーション・ソフトウエア(以下,アプリ)の販売で,巨額の手数料収入を得ている。この iTunesに非接触ICカード技術を組み合わせることで,「iPhoneをチケット代わりに使う」といった新たな使い方を提案できる。

相互接続性確保がきっかけに

 NFCのコンセプト自体は,8年前から提案されていた注1)。それが,ここへきて各社がこぞって採用に向けて動きだした理由は,大きく二つある(図2)。

注1) ソニーとNXP Semiconductors社(当 時はRoyal Philips Electronics社)が NFC を「ISO/IEC 18092」として2003年に規格 化した。

図2 NFC搭載が本格化するまでの道のり
2007年ごろに,欧州において携帯電話事業者とクレジットカード事業者,銀行などとの間でモバイル決済システムの役割分担について,合意が形成された。その後,NFC相互接続性プログラムの確立,サービス開始へと進んでいった。
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 第1の理由は,2010年末になってようやく,NFC対応機器間の相互接続性を確保するメドが立ったことである。これまではNFCが包含する非接触IC カードの国際規格が複数存在し,通信モードが複数に分かれているために,NFC搭載機器間で相互接続できない可能性があった。