それが,2010年11月に普及促進団体であるNFC Forumが仕様を厳密に規定し,同年12月に相互接続認証プログラムを開始したことで,NFCロゴが付された機器同士の相互接続性が保証されるようになったのである(pp.64─65のインタビュー「“世界初の家電タグ”をきっかけに,NFCは一気に普及する」参照)。

 第2の理由は,NFC対応携帯電話機を使った決済サービスが,2010年末から世界各地で立ち上がり始めたことである。主体はいずれも携帯電話事業者だが,クレジットカード会社や銀行,鉄道事業者など,さまざまな業界の企業を巻き込んだサービスとなっているのが特徴だ。これらの企業は,NFCを使った決済サービスを扱う商店の拡大や,鉄道の乗車券をNFCの非接触ICカード技術に変更するといったインフラ整備を着々と進めている。Google社や Apple社は,こうしたNFCインフラ整備の動きに“乗っかる”形で,自社のスマートフォンの付加価値を高めることができるのだ。

FeliCaの焼き直しではない

 非接触ICカード機能を携帯電話機に組み込む技術では,日本市場に先達がいる。ソニーが開発した非接触ICカード技術「FeliCa」だ。今,Google社やApple社がスマートフォンで実現しようとしているサービスは,FeliCa搭載携帯電話機「おサイフケータイ」が描いた未来とうり二つに見える。

 しかし,NFC搭載のスマートフォンがもたらすであろう変革の大きさは,FeliCa搭載の携帯電話機のそれにとどまらない。最大の相違点は,携帯電話事業者との距離感だ。FeliCa搭載携帯電話機は,あくまで携帯電話事業者のビジネスモデルに沿う形で進化してきた。このため,携帯電話機をクレジットカードや電子マネー・カード代わりにすることに,機能の主眼が置かれている。実際には,もっと多くの用途に活用できるが,その本来の機能の幾つかを実質的に封印している状態にある。

 一方のNFCは,その推進主体にGoogle社やApple社が加わるなど,FeliCaと異なる事業環境で利用される可能性が高い。このため,“携帯電話事業者のビジネスモデルに沿う”といった束縛がなく,当初からその本来の機能を発揮できる可能性があるのだ。

機器間の通信機能を積極開放

図3 NFCとFeliCaの違い
モバイルFeliCaは携帯電話機をクレジットカードや鍵の代わりに使うことを目指してきた。このため,近距離無線通信技術を機器同士のデータ交換に使ったり,タグのリーダー/ライターとして活用したりしにくい実装になっている。
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 例えばNFCには,対応機器間でデータ通信を行う機能がある。このような機能は,あくまで非接触ICカード代わりにすることを期待する携帯電話事業者にとっては,無用なものだ。それが,Google社がAndroid 2.3に組み込んだNFC機能では,こうした通信機能を積極的に使えるようになっている。これは,携帯電話事業者のビジネスに縛られない,Google社こその発想といえる。同様にApple社も出願している特許を見ると,NFCを決済サービス以外のさまざまな用途に適用する狙いがうかがえる。

 NFCが,FeliCaのような従来の非接触ICカード技術と異なる点は四つある(図3)。 ① 非接触ICカード技術を搭載した機器同士が方式を問わず相互接続可能であること,② スマートフォンなどに,NFCのリーダー/ライター機能が標準で搭載される可能性が高いこと,③ オープンなアプリケーション開発環境と,世界規模のアプリ配布システムがあること,④ NFCを介した機器間のデータ通信や非接触ICタグの読み取りが容易なユーザー・インタフェースになっていること,である。