図1 日産リーフ(写真:日産自動車)
図1 日産リーフ(写真:日産自動車)

 日産自動車が2010年12月に発売した電気自動車(EV)「リーフ」(図1)。当初は年産5万台、2012年には年産20万台と、EVとしてはかつてない規模で量産される。リーフには、通信機能を持つカーナビと連動させて充電施設を案内したり、航続距離を延ばせるようにLiイオン2次電池の管理を徹底したりするなど、さまざまな工夫がなされている。数ある特徴の中で、LEDヘッドランプが標準搭載されたことも注目される。

 リーフのLEDヘッドランプはロービームの光源に白色LEDを用いており、ロービーム点灯時の消費電力はヘッドランプ1個当たり23W。これは、55~60Wというハロゲン・ランプに比べると40%程度、43~45WというHIDランプの50%程度にすぎない。トヨタ自動車がハイブリッド車「プリウス」の現行モデルに搭載したLEDヘッドランプの約35W(ロービーム点灯時、発表当時の数値)と比較しても消費電力は小さい。

 リーフのLEDヘッドランプの開発を担当したのが、市光工業である。「世界最高の省電力性能」(同社)を低コストで実現するために、白色LEDが発する光の損失を抑えつつ所望の配光特性を得る工夫や、白色LEDを効果的に放熱して発光効率を高く保てる対策を施したという。今回、日経エレクトロニクスでは、市光工業でLEDヘッドランプの開発に携わった技術者に取材し、配光や放熱などの勘所、そしてLEDヘッドランプのこれからの進化の方向性を聞いた。

たった2個の白色LEDで光を得る 

図2 LEDヘッドランプ・ユニット。1ユニット当たり、白色LEDを2個使う。
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 市光工業でLEDヘッドランプの開発をまとめた村橋克広氏(同社 開発本部 研究開発部 P2P3プロジェクトチーム1 プロジェクトマネージャー)が強調するのは、ヘッドランプ1個当たりに使用する白色LEDをわずか2個で済ませたことである(図2)。リーフは車両価格が376万4250円(税込み)、補助金を利用すれば298万4250円(同)と、EVとしては安価に抑えている。このように普及価格帯でありながらLEDヘッドランプを標準搭載させた。オプション品として選択するような場合や高級車に搭載される場合に比べて、当然、LEDヘッドランプの部品コストを低く抑えねばならない。そのためにも「他社は3個の白色LEDを使っているところを、2個で済ませる」(同氏)ことは必須だった。

 ただ、3個を単純に2個に減らすのでは、ヘッドランプとしての明るさが足りなくなってしまう。白色LEDの特性は右肩上がりで改善しているので、いずれは3個の明るさを2個で済ませることは可能とみられるが、現状の白色LEDに「あり余るほどの明るさはない」(村橋氏)。白色LEDへの投入電力を上げれば明るさを稼げるが、発熱量が大きくなることで白色LEDの温度が上昇して発光効率が低下する。消費電力が大きくなるために、LEDヘッドランプの利点である“消費電力の低さ”のインパクトが弱まってしまう。そこで、市光工業は白色LEDの光を損失少なく利用できるように細かな配光制御を用い、かつ白色LEDの発光効率を高く保てるような放熱設計を施したという。

3枚の反射面で所望の配光を得る