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第2回:楽天家でないとやってられない

大槻 眞 = 大槻コンサルタント事務所 代表
2011/04/20 00:00
出典:日経エレクトロニクス、2010年10月18日号 、pp.18-19 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
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中国の“ダメ工場”の製造不良率を、一時の16%から0.3%にまで低減することに成功した筆者。現地の従業員をどう指導し、どのような関係を築いたのか。

 2009年1月にはこんなことがあった。

 「表面付着物を同定したいから,そこにあるX線スペクトラム・アナライザで元素のピークを調べてきて」と言ったところ,現場のマネジャーがもじもじしている。「どうしたの?」と聞くと,マネジャーはおずおずと小声で「実は,誰も使えない」と言う。「えぇ!2000万円以上の測定器だぜ。なんでそこにあるのさ?」と聞けば,「ある顧客にRoHS対応に必須と言われたから」との答えだった注1)。こうした高性能な測定器は,手入れをしなければ使いものにならなくなってしまう。こんな常識すら,彼らは知らなかったのだ。

注1) この背景には,台湾企業の一般的な行動パターンがある。台湾企業は,自ら設備を買わずに生産委託先の中国企業に導入させて投資リスクを回避している。

 もう一つ,ほぼ同じ時期にガックリしつつも勢い込んで現場マネジャーに教えたことが,「自分たちが何を売っているか」という点である。彼らはプリント基板といった具体的な「生産品目」を挙げたのだが,実態は部品も仕様書も,顧客から支給されたものばかり。つまり,彼らの本当の売り物は「製造品質」なのである。こんなことを,私は口を酸っぱくして教え込んだ。

 楽天家でなければやっていけないとつくづく痛感した出来事を,もう一つだけ挙げよう。それは,2年半ほどの間に,私に付いた通訳兼助手が3代続いて「目覚めた」後,すたこらさっさと辞めたことである。私はこれから記すように,確実な製造業務のやり方を徹底的に教えている。これらを通訳兼助手の立場で効果的に学び取るや否や,転職してしまったのだ。「給料は転職によって上げる」という文化が根付いている深センとはいえ,さすがにこれには閉口した。ただ最近では,「あの時は日本人のおやじに鍛えられたなぁ」と彼らの中でいい思い出になってくれればいいさ,とあきらめている。

軍隊式が適する理由

 私は今,軍隊における上官と部下のような人間関係を中国人従業員と築いている。多くの日本人は,「そんな関係でいいの?」と疑問を感じるかもしれない。しかし,中国における近代工業化の歴史は,日本や台湾よりも格段に短い。このハンディを克服するには,今のところ必要不可欠な関係性ではないだろうか。

図2 待望の出荷
図2 待望の出荷
香港に向けて積み荷をまとめると,それまで慌ただしかった製造現場から人が消える。

 先進国の一部メディアは「Foxconn社(富士康,台湾Hon Hai Precision Industry Co., Ltd.の中国法人)は軍隊のような会社だ」と揶揄するが,私には,これこそが素直に従業員にとっても会社にとっても喜ばしい企業文化でないかと思える。

 というのも,中国人従業員の自分勝手で都合の良い思い込みに,ほとほと手を焼いたからだ。例えば,どうにか期日通りに商品が出荷されたときには,製造ラインに直接タッチしていない事務職の人まで「Today is off duty」と言う(図2)。その気持ちがわからないわけではないが,許していては永遠にまともな工場にならない。彼らのためにも,愛をもって本気で指導する必要がある。

 私はすぐ「生産データや品質データのまとめ,現場の最終QCチェックリストの回収,問題製品の対策報告書の作成が残っている。完成させなきゃ,帰宅は許さないぞ」と言い切って,事務職に作業をさせた。ところが彼らは経験が乏しいので,実に手際が悪い。なので,彼らが見ているところで私が報告書一式をさっさと完成させた。

目の前に突き付ける

 これだけではない。プロセス不良解析,プロセス改善策の考案,洗浄剤の分析,洗浄方法の実地指導,自動はんだ付け装置の予熱温度データ分析…,私はなんでも中国人従業員の目の前でやって見せている。

 彼らは口が達者でプライドが高いせいか,自分の落ち度を目の当たりにするまで延々と言い訳し続ける。しかも,反省は改善に必要不可欠なステップなのに,反省は自分の負けを意味すると思い込んでいる。だから証拠を見せつけられるまで反省しないし,問題解決に向けた話し合いをさせても,各人が自説を交えることなく主張することになる。

 こうした行動に,私がいちいち付き合っていては,製造不良率は一向に下がらない。だからこそ,私がやってみせる必要があるのだ。しかも,行動ならば,私の中国語能力の欠如が問題にならない。私は英語には不自由しないが,中国語はからっきしである。それで大丈夫なのか,私も当初は心配したが,仕事上の問題は何もなかった。中国には英語を話せる若者が,それこそ無数にいる。その中からピックアップして通訳兼助手にすればよい。

 加えて,私が教えた内容が正しく伝わり,かつ理解されているかどうかの確認には,その場で中国人従業員に教えられた内容を述べさせる。この,述べさせるという手段は,彼らに自己の理解度を認識させるために有効だ。もっと明確に言ってしまうと,彼らが分かっていないということを,彼らに分からせることが可能になる。

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