同じ飯を食らう

 第2は,中国人の中に飛び込むこと。私は工場の食堂で,作業者と同じ,おいしくないご飯を食べている。外国人だからといって特別な暮らしをしているようでは,まともに話を聞いてもらえないからだ。ただ,分かってはいるのだが,本当に工場のご飯はおいしくない。どのくらいかと言うと,週末に深センの繁華街で近代文明を感じるレストランで食事すると,ホッとすると同時に「食事ってこんなにおいしいものだったのだ」と気付くほどだ。

図1 筆者の生活環境
図1 筆者の生活環境
虫がよく登場する会社の寮に住み,工場の作業者と同じものを食べている。

 さらに私は,工場側の寮に住んだ。深センに来てしばらくは,街中にある,そこそこ高級なマンションに住んでいた。しかし,深セン市の外れにある工場まで通う時間が無駄な上に,本気で品質を改善している姿を中国人従業員に見せつけられない。そこで私は,寮の来客用特別室に住ませてもらうことにした。といっても,そこは相当にぼろい。エアコンだけではなくゴキブリや蜘蛛も「付いている」部屋である(図1)。まぁ,このくらいなら我慢できる範囲のうちだ。

 同僚の台湾人に,こうした食事や部屋の話をすると「よくもまぁ,そんなことができたものだ」と驚かれる。そんなとき,私は「普通に暮らしていたって結果が出ねぇんだから,しょうがねぇだろう」と返すことにしている。

 こうした言葉を発することができる価値観を私が持っていることが,不良率低減に成功した第3の理由だろう。中国で働く日本人の中には,KTV(カラオケ付きのナイトクラブ)に通ってばかりの人もいるようだが,そんなことよりも断然,電子機器の設計・製造上の問題を突き止め,それを解消することの方が私は好きだ。家族には「死ぬまで現役,リングの上で死にたい人」と思われている。こういう私だから,工場の立て直しにこだわることができた。

楽天家であり続ける

 第4の理由は,私が楽天的に物事をとらえられることである。例えば「中国は楽しい。常識破りのことが1日に1回は経験できるのだから」と本気で思うようにしている。