部品の製造不良率は16%。日本では想像できないような“ダメ工場”の立て直しのために、筆者は中国に派遣された。そこで何を考えたのか。

 私は台湾企業の依頼で,中国の広東省深セン市の工場において生産技術の指導とマネジメントをしている。同僚に,日本人やデキる生産技術者はいない。60歳を過ぎたというのに,行ったこともなかった中国で孤軍奮闘しているわけだ。ハッキリ言って,中国での仕事は,落胆と失望の繰り返しである。虫が床を元気に駆け回る寮の自室に帰るや否や倒れるように寝てしまうほど,くたびれることがしばしばある。

 しかし,奇妙に思われるかもしれないが,私は日本を脱出してつくづく良かったと思っている。仕事が面白いからだ。成果は表れている。悪戦苦闘の末,製造不良率を台湾のマザー工場に匹敵するレベルにまで下げられた。ある部品の製造不良率は2年前,一時16%という,卒倒してしまうような水準だったが,最近は0.3%ほどになっている。

 中国での生産技術指導は,会社や部下が何でもサポートしてくれる環境にいた人には決してお勧めできない。日本の常識では考えられない問題が次々と発生するからだ。

 ただし,深セン近郊では「日本語通訳とアパート,送迎車付きで年俸1000万円」という求人が少なくないと聞く。腕に覚えがある人は,本稿を読んで自分の生かし方に気付くかもしれない。生産技術に携わらない人にも,本稿は多少なりとも役立つはずである。私が不良率の低減に向けて実行した内容は,ミクロの視点ながら中国の実情に基づいているためだ。

反日感情を恐れない

 私がなぜ不良率の大幅な低減に成功したのか。その理由は,どうやら四つありそうだ。

 第1は,日本と全く異なる人間関係を中国人従業員と築いたこと。例えば,私は従業員の主張を完全に論破することに一切ちゅうちょしない。さらに,不良解析の作業などを目の前で繰り返し見せつけている。これらによって「この人は特別に有能な,怖い人」「この人には従っておいた方が得策」と中国人従業員に思わせる。製造業務のいろはを教え込むのは,こうした人間関係を構築してからである。この順番を間違ってはならない。

 主張の論破は,何も製造業務に関することに限らない。台湾やチベットに関して中国政府が国民に教え込んだ内容に話が及べば,その誤りを明確に指摘する。さすがに公衆の面前ではやらないものの,反日感情を気にしたって何も始まらない。どこをどう取っても中国政府側の話は納得がいかないことばかりなのだから。私がいかに中国人従業員を「味方に付けた」かは,後ほど詳しく述べる。

同じ飯を食らう