「震災を理由にサプライチェーンを変更されることだけは避けたい。そういう思いで工場の復旧に取り組んだ」。リコー光学(本社岩手県花巻市)取締役(資材調達部、MP事業室、特機事業推進室担当)の高橋達彦氏は、2011年3月11日に起きた東日本大震災以降の日々をそう振り返る。

ほぼ通常通りの量産体制

いわて花巻空港に掲示されていた避難場所情報や道路交通情報
2011年4月6日に撮影したもの。「震災下」であることを強く感じさせる。

 同年4月6日、震災対応の一環で運行が始まった羽田空港といわて花巻空港を結ぶ臨時便「JAL4745」の機内は、スーツ姿の出張客でいっぱいだった。東北新幹線が全面的に復旧していない中で、東京-花巻線の臨時便は東北地方でビジネスを動かそうとしている人たちの重要な“足”となっている。

 到着地であるいわて花巻空港から車で15分ほどのところに、リコー光学の本社がある。前出の高橋氏をはじめ、花巻の人たちは「沿岸地域に比べれば花巻は津波もなかったし、地震の被害も大きくなかった」と口をそろえる。とはいえ、2011年3月11日の巨大地震の直後は電力も水道も供給が止まり、同社も生産停止に陥った。

 しかし、同年4月4日に全面的に生産を再開。同月7日に起きた“余震”で岩手県全域が停電となり、再度の復旧活動を余儀なくされたが、同月11日にほぼ通常通りの量産体制に復帰した。取引先からの注文を問題なくこなせているという。

 リコー光学は、リコーの完全子会社ではあるものの、約200億円の売上高の約70%はリコーグループ外から受注している。そのため、リコーの生産子会社というよりは、リコー系列の光学部品メーカーという方がリコー光学の実情に近いかもしれない。同社の生産品目は、プロジェクタの光学エンジン、複合機の読み取り/書き取りユニット、光学レンズ、光学部品用金型と多岐にわたる。これまで獲得してきた顧客を失わないためにも、工場の早期復旧に全力を注いだ。

 精密な光学部品を製造している関係上、工場のほとんどはクリーンルーム環境である。電力や、温度を保つための燃料(重油)がなければ、クリーンな環境は維持できない。「震災によってこれらのユーティリティーが断たれたのは痛かった。クリーンルームで造るという意味では、半導体と同じような条件といえる。復旧までには苦労した」(高橋氏)。

停電だと復旧しようがない