各社が1kWhで3万円台を実現

 YTE社に限らず,中国の電池メーカーは着実に技術力を上げている。Fe系のLiイオン2次電池を手掛けるメーカーばかりではなくなっているからだ。

 例えば中国BAK Battery, Inc.(比克電池)は,正極材にCo-Ni-Mn系のいわゆる3元系を使うLiイオン2次電池を出展した。円筒型セルの形状は直径18mm×長さ65mmの「18650」である。

 3元系ながら,販売価格は1Ah当たり11元(1元=12円換算で約130円)に抑えた。電池セルの電圧は3.6Vのため,1kWhでわずか約3100 元(約3万7000円)と計算できる注4)。BAK社は,開発した電池を中国の大手自動車メーカーであるChery Inc.(奇瑞)やDongfeng Motor Corp.(東風汽車)などに供給していることも明らかにした。

注4) 日本の電池メーカーが販売する自動車 向けLiイオン2次電池の価格は現在,1kWh で10万~15万円程度とみられる。

 一方,Fe系を手掛けるLiイオン2次電池メーカーは,それ以上の価格の安さでアピールする。例えば中国Thunder Sky Battery Ltd.(雷天電池)が出展した電動バス向けFe系Liイオン2次電池の販売価格は,1Ahで1.2米ドル(1米ドル=83円換算で約100円)と破格に安い。セル電圧は3.2Vのため,1kWh当たり375米ドル(約3万円)で購入できることになる。「徹底的に製造コストを抑えた結果」(同社)だとする。

 後日,実際にThunder Sky社の工場を訪れてみると,若い作業員らが手作業で電池モジュールの筐体の研磨や品質チェックをしていた(p.61の写真参照)。どうやら安価な人件費を背景に,多数の人手を活用して製造装置の導入コストを抑えて安値を実現しているようだ。

安価なタクシーで食い込む

図3 BYD社の 低炭素化への取 り組みは電動車 両だけではない<br>BYD社は中国に おける低炭素化 の方針を明らか にした。4段階で 進める。そのた めに,電動車両に 加えて,太陽電池 やLEDなどを手 掛けている。
図3 BYD社の低炭素化への取り組みは電動車両だけではない
BYD社は中国における低炭素化の方針を明らかにした。4段階で進める。そのために,電動車両に加えて,太陽電池やLEDなどを手掛けている。
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 中国の電池メーカーが電動バスや電池技術のアピールに躍起になる中,既に販売実績で一歩先を行くのが中国最大手の電池メーカーBYD Co. Ltd.(比亞迪)である(図3)。同社は自社開発した電動バス「K9」を披露した。既に,中国・湖南省に1000台納入することが決まっているとする。

 さらにBYD社は,タクシーのEV化でも実績を積みつつある。タクシーに改装したEV「e6」を深セン市に納入済みで,現在,50台程度が市街地を走行しているというのだ。BYD社 CEOのChuanfu Wang(王傳福)氏はEVS25で登壇し,「中国では,バス1台のEV化で乗用車30台分,タクシー1台で同10台分の温室効果ガスの削減につながる。つまり,中国の低炭素化には乗用車のEV化よりもバスとタクシーから進めるのが効率的」と熱弁を振るい,政府方針の正当性を後押ししてみせた。

 BYD社と同様に,タクシーのEV化に今後の商機を見いだす自動車メーカーは多い。BYD社ほどのブランド力がない中小企業各社は,安い車両価格を打ち出してアピールする。例えば,6万元(約72万円)という安価なタクシー向けEVを発表したのが中国Wonder International Group Co., Ltd.(万得国際集団)である(次ページの表2)。

表2 中国メーカーが出展した主なEV
表2 中国メーカーが出展した主なEV
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 同EVは安価にもかかわらず,32kWhと大容量のLiイオン2次電池を搭載する注5)。とても6万元で利益が出るようにみえない。実際,同社は「戦略的な値付け」として採算を度外視しているようだ。現段階では,省や市への納入実績を作ることが重要との判断である。

注5) 正極材はCo- Ni- Mn系の,いわゆる3元 系を使う。100個のラミネート型の電池モジ ュールから構成される。モジュール1個当たり の電圧は3.6Vで,電流容量は100Ah。モジ ュールの外形寸法は105mm×95mm×250 mm。質量は3.5kgである。

 もちろん,コストを抑えるために,性能面で妥協した部分もある。出力が20kWでトルクが53N・mと,比較的小さなモータを採用した。車速は最高 70km/hと遅くなるが,「中国で走行するタクシーならば,(渋滞がひどいので)これで十分」(Wonder International社)と割り切った。