日産自動車の新型電気自動車「リーフ」は,世界市場を強く意識したクルマだ。5ナンバー枠を超えた大きさのハッチバック(5ドア)。フル充電での航続距離160kmは,実は「100マイル」を意識したものである。
日産自動車は,このリーフを中心として世界で年間20万台の電気自動車を売るつもりだ。2010年末の日本と米国での発売に合わせて,2010年後半に追浜工場で年産5万台,さらに2012年後半までに米国のSmyrna工場で年産15万台の体制を確立する。このように,日産自動車の電気自動車での突出振りは際立っている。一体どんな成算があるのだろうか。
2009年8月2日に初公開されたリーフが積んでいた電動パワートレーンは開発過程における試作品だったが,日産自動車は,ほぼ量産型の電動パワートレーンとプラットフォームを使った実験車も公表している(図1)。2009年7月27日に,同社が開催した技術説明会で明らかにしたものだ。ここでは,採用される技術,あるいは開発中の技術,車両の構成,価格などから日産自動車の戦略を解き明かしていこう。
中低速域で優れた加速性能
日産自動車はリーフの性能面の魅力として,「(走行時に排ガスを全く出さない)ゼロエミッション」「胸のすく加速感」「圧倒的な静かさ」「日常十分な航続距離」「ITシステムによるアシスト」─などを挙げ,それを手ごろな価格で提供するとしている
電気自動車はゼロエミッションで当たり前。そこでまず,クルマの基本である走行性能を見よう。図2は,交差点での発進時の加速度をグラフで示したものだ。電気自動車は,アクセルを踏むと素早く加速が始まり,短時間で最高加速度に達する。加速度のピークは低いが,一定の加速度が長く維持される。この間,体がシートに押し付けられるような力強さを感じるという。この加速は,出力80kW,最高トルク280N・mを発揮する自社開発の永久磁石式モータで実現している(図3)。
280N・mの最高トルクは,排気量2.5Lのガソリンエンジンを搭載した同社の「ティアナ」の240N・mを2割弱上回る。40km/hから60km/hへの加速時間も,同社の高級セダン「フーガ」に迫るレベルという。中低速域では,かなりキビキビした走りが期待できる。
モータは,車内の静かさにも貢献している。夜間など住宅地で静かに発進することを想定した場面では,2.5Lガソリンエンジンを搭載したティアナと比べて大幅に騒音が低い(図4)。
一方,高速走行時の加速性能は公表されていない。最高速度は140km/h以上としており,実際に140km/hをどれだけ上回るかにもよるが,80k~100km/hで走行しているときにアクセルを踏み込んでも「胸のすく加速」とまではいかないかもしれない。