「iPad 2」の発表会に出席して,まずは二つのことを感じた。一つは,製品全体として魅力が向上したということ。マイクロ・プロセサの処理速度向上,本体の薄型化・軽量化,OSのアップデートなど,消費者の立場から見て,iPad 2はさらに有力な製品としてしっかりとした仕様をそろえたと感じた。

 もう一つは,iPad上で動作する音楽制作・演奏ソフト「GarageBand」を舞台で実演しているのを見て感じたことだが,「主にiPadはコンテンツを楽しむための端末」といったコンセプトをApple社は重視しているということだ。実演では,AppleはiPadがコンテンツ製作にも向いている,ということをアピールしたと思われる。新しいカーバー製品でiPadをスタンド型にできる「Smart Cover」も,コネクタの接続口を隠さないように設計されている。つまり,ユーザーが簡単にスタンド型にして,キーボードや大型ディスプレイと接続するといった使い方を狙っている。iPadの画面をそのまま大型ディスプレイに表示させたのは,この発想の延長である。

 発表会ではCEOのSteve Jobs氏が,「Post PC」という言葉を何回も繰り返して言った。これは重要である。Apple社は,iPadのようなタブレット端末を個人ユースにおいてメイン機器にさせようと,考え方をシフトしているように感じる。このようなこともあってか,米Gartner, Inc.はノート・パソコンの需要は今後減ると予測している(同市場調査の発表)。

 Apple社は,搭載したマイクロプロセサを自社製の「A4」から「A5」に変更したが,これは同社の半導体の開発能力の高さを見せている。A5はデュアルコアだが,いずれは4コアを搭載したSoCを公開する可能性もある。これは,米Intel Corp.や米Qualcomm Inc.,米NVIDIA Corp.が供給する携帯端末向け低消費電力SoC製品に対しては脅威となるだろう。Intel社の,28nmプロセス上で製造する「Atom」にはチャンスがあるかもしれないが,Appleは自社でSoCを開発する傾向が続くと思う。

 現在,市場に流通しているタブレット端末は,初期のiPadのα版と同様な機能だと感じる。従って,市場でヒットするチャンスはほとんどないと思う。「Android 3.0(開発コード名:Honeycomb)」(Tech-On!関連記事)はiPadを追撃する第一歩としては良いが,まだ完成していないと感じている。2012年までに安定してくるであろう。

 Appleは600億米ドルの現金を保有している。2010年第4四半期の電話会議において,79億米ドル分の部品を既に購入したと報告した。私は,同社が既に9.7~10型の液晶ディスプレイやフラッシュ・メモリを大量に購入したと確信している。従って,競争相手の企業は同じディスプレイを購入するために,(Apple社のコストより高い)110~150米ドルの料金を支払うことになる。従って,このクラスのタブレット端末で,Apple社がコスト的に有利な立場がしばらく続くと感じている。(談,聞き手はPhil Keys=シリコンバレー支局)

Tim Bajarin
米Creative Strategies, Inc.,President
Creative Strategies社に1981年に入社。1980年代から長きにわたってパソコンおよび家電業界の動向をフォーローしている。米Apple社や米Hewlett-Packard社,米Microsoft社,東芝などにコンサルティングを行った経験がある。