機器メーカーは業容の見直しを

 日本の民生機器メーカーは,Hon Haiグループに代表される巨大EMS/ODM企業と,いかに向き合うべきだろうか。ヒントは三つある。

 第1は,国内勢で希有な黒字を出している東芝のテレビ事業である。この主因は,EMS/ODM企業を直接担当する資材調達部門が設計部門に近い社内政治力を持ったことだった。パソコン事業出身の西田厚聰氏が社長に就き,資材調達部門から役員が生まれたためである。

 この結果,「今ではEMS/ODM企業のコストを基に,自社設計に否定的な意見も言えるようになった。これによって原価低減が進んだのはもちろん,委託先から有利な条件を引き出せた」(東芝の社員)。つまり,自社設計を止めやすい体制をつくることが,EMS/ODM企業との円滑な関係をもたらす。

 第2のヒントは,北米テレビ市場で韓国Samsung Electronics Co., Ltd.とトップを争う米VIZIO, Inc.である。同社の従業員数は2009年末時点で180人と,競合他社と比較して圧倒的に少ない。しかも,その過半数はコールセンター勤務である。ユーザーの不満を聞くことで,米国で深刻な返品を抑制するためだ。設計のほとんどはEMS/ODM企業に任せている6)。こうした現実に基づき,日本メーカーの経営者は必要な業務のみを自社に残す決断を下す必要がある(図12注8)。

参考文献
6) 大槻,「手ごろなテレビは,安い部品じゃ作れない」,『日経エレクトロニクス』,2009年12月14日号,no.1019,pp.115—117.

注8)一部の国内機器メーカーが熱心な「部品支給」も止める業務の候補だ。部品支給とは,機器メーカーがいったん部品を買い付けてEMS/ODM企業に利益を載せずに提供すること。部品メーカーとの関係を維持できるが,同様な業務はEMS/ODM企業も担える。しかも,価格はEMS/ODM企業の方が大抵安い。部品の購買量が多いからだ。

タイトル
図12 事業再構築が付き合いの必要条件
Hon Hai社が仮に没落しても,巨大EMS/ODM企業が重宝される状況はまず変わらないだろう。この時代を日系機器メーカーが勝ち抜くには,大胆な事業の再編が必要だ。巨大EMS/ODM企業に選ばれるためである。

 第3のヒントは,EMS/ODM企業における勝利の方程式である。利益の源泉は筐体や金型といった機器組み立ての前段階にある。一方,日本の大手民生機器メーカーは,製造装置を含めた前段階の事業を抱えている。これをEMS/ODM企業に譲渡すれば,日本メーカーは有利な条件で取引を結べるだろう。 EMS/ODM企業は,獲得した事業を基にほかの顧客から収益を上げられるからだ。

 ただし,先述のソニーのLiイオン2次電池における逸話で明らかなように,EMS/ODM企業は技術力に加えて規模も重視する。同じ狙いを持った民生機器メーカーとの共同での事業売却などが有効だろう。